自閉スペクトラム症や重度知的障害の子が“穏やかに過ごせる”自由時間のつくり方(前編)

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重度知的障害や自閉スペクトラム症のお子さんへの遊び支援とは

私の出張カウンセリングでは、様々なタイプのお子さんの相談をお受けしています。

ただ実際には、重度知的障害や自閉スペクトラム症といった、
いわゆる特性が強いお子さんに関するご相談が多い傾向にあります。

その中で、親御さんからよく聞くのが、このような悩みです。

決まった活動をしているときはよいのですが、家族でのんびりする時間になると、逆にウロウロ歩いて落ち着かないんです。

こうした「リビングでの何気ないひととき」「自由時間の過ごし方」は、余暇活動とも呼ばれます。

実は、重度の発達障害があるお子さんにとって、余暇活動・遊び支援を充実させることが、
穏やかな生活を送れるかどうかの重要なテーマとなります。

関連記事はこちら。
👉怒り・興奮をおさめる力は、“一人遊び”から始まる――重度のお子さんにとっての自由時間(後編)


重度知的障害・自閉スペクトラム症の子にとって自由時間が難しい理由

「自由な時間」と聞くと、何をしてもよく、好きなように過ごしていい時間という印象から、
問題が起きにくい時間帯と思われる方も多いかもしれません。

ところが、重度知的障害や自閉スペクトラム症の特性をもつお子さんにとっては、必ずしもそうとは限りません。
むしろ、自由時間や余暇が家族にとって悩ましい時間になることも少なくないのです。

たとえば、重度の特性があるお子さんの中には、次のような行動が見られます。

  • 辺りをうろうろと、ひたすら歩き回る
  • 同じパターンの動きを、延々と繰り返す
  • 風や光が当たる場所で、じっとたたずんでいる

大人が遊びに誘おうと声をかけたり、おもちゃや絵本を見せたりしても、
反応が乏しかったり、まったく興味を示さないこともあります。

時には、自分のペースを乱されたと感じたのか、かんしゃくを起こしてしまうこともあるのです。

すると、「うかつに声をかけないほうがいいのでは…」「かんしゃくを起こされたら困る…」と、
大人の関わり方が消極的になっていきます。

その結果、困った行動が始まっても、どう関わればよいか見当がつかず、ただ見守るしかなくなります。

そして、行動がエスカレートしていき、いよいよ目に余る行動を止めようとしても、
かえって荒れてしまい、ますます状況が悪化する——

そんな悪循環に陥るケースも少なくありません。


療育で重要な視点──「遊びを教える」「遊びを作っていく」支援

遊びや自由時間の過ごし方なんて、そのうち勝手に覚えるものでは…

そう考える方も少なくありません。

けれども、特に重度知的障害や自閉スペクトラム症など、発達に大きな遅れのあるお子さんの場合はどうでしょうか。

実は、子どもにすべてを任せきりにしてしまうと、遊びがうまく発展しないばかりか、
不適切な行動が習慣化してしまうということが、よくあります。

ここで大切なのが、療育や普段の生活の中から、
大人が意識的に「遊びを教える」「一緒に余暇活動を作っていく」という視点です。

今回は、特に重度の発達の遅れがあるお子さんを想定しています。

こうしたお子さんの場合、年齢相応と思われるおもちゃやグッズを与えても、
遊びに結びつかないことが多く、「ハズレ」になってしまいがちです。

中には、物を受け渡す以前に、相手の手に物があること自体、見ていない・気づいていないケースもあります。

また、大人が手を添えて何かを持たせようとしても、手にまったく力が入っておらず、
物を握ることさえできない場合もあります。

こうしたお子さんに「おもちゃを買ってきたから遊んでみなさい」と伝えても、
それだけで遊べるようになることは、ほとんどありません。

まずは、「どうやって遊ぶのか」「そのためにどんな動きが必要なのか」といった
ごく基本的なことを、ひとつずつ丁寧に教えていく必要があります。


家庭でできる遊び支援の具体例

私の出張カウンセリングでは、重度知的障害や自閉スペクトラム症といった特性のあるお子さんに、
日常生活の中で続けられる遊びの工夫をご提案することがあります。

集合場所は、自宅近くの大型100円ショップ。
お店の中をお子さん、お母さん、私の3人で歩き回ります。

私と子どもが手をつないで歩き、お母さんはカートを押して後から付いてきます。
歩きながら、お子さんが手に取ったり触ったり、じっと見続けた商品をどんどんカゴへ。
小一時間の買い物で30点以上、合計4,000円弱になりました。

どっさり買い込んだ商品を袋詰めして店を出ます。
家に帰って、1つずつ子どもに手渡したところ──

……(座って黙々と触り続ける)

はい、それまでおもちゃに興味を示さなかったお子さんが、
その日買ったいくつかのグッズで遊び始めたのです。

具体的に何でどのように遊び始めたのか、いくつかご紹介しましょう──

  • メイク用のチーク筆(フワフワの筆で手をスリスリする)
  • ピクニック用のコップ(糸電話のように耳に当てる)
  • 野菜の水切り器(グルグルとレバーを回す)
  • ジェイソンのお面(穴に指を突っ込んでいた)

こんな感じです。そして、お母さんの第一声はこちら──

本来の用途と全然違う(笑)

ナイスつっこみ、ありがとうございます。

それまで自宅で手持ちぶさたに歩き回ることが多かったお子さんが、
物を手にして過ごす姿は、親御さんにとって大きな驚きだったようです。


ただし、本人が気に入ったグッズを渡して、「はい、おしまい」というだけではありません。

  • パスタケースに穴を開け、タピオカドリンク用のストローを落とす
  • 園芸用のカップを、黙々と積み重ねる
  • 子ども銀行のコインを、貯金箱に入れていく

こんな作業チックな遊びも教えました。

もちろん、重度のお子さんにとっては決して簡単なことではありません。
最初は大人が手を添えてしっかりと動きを介助し、徐々に手を離していきます。

最初は「そんなことやりたくない!」と拒否していたお子さんも、
数日後には自分から手に取って遊ぶようになりました。


遊びらしく見えなくても大切な療育支援になる理由

このような姿を見て、「遊びのように見えない」「イメージしているものとは違う」、
そう感じる方もいるかもしれません。しかし私は──

これは立派な遊びです

と、お答えします。

最初、親御さんが思い描いていたのは、トミカやプラレール、シルバニアやプリキュアだったかもしれません。

けれど、そのお子さんが自ら選び、親御さんの働きかけや工夫によって過ごせるようになった遊びです。
私は、そのプロセスを含めて、そこの子らしさや家族らしさが表れていると思います。


今回の記事を読んで、簡単そうに思われた方もいるかもしれません。
でも実際は、遊びのレパートリーを1つ獲得するだけでも、相当の根気と工夫が必要なのです。

最初はぼーっと歩き回るばかりだったお子さんが、すっかり遊びが板についてくる。
すると、それに伴って発達年齢がぐんと上がります。

遊びの中で、親御さんが我が子の成長を肌で感じられるようになる──これが支援の醍醐味です。


後編では遊び支援が情緒の安定につながる理由を解説

こんなふうに、遊びを“教えていく”ことには、多くの工夫と根気が必要です。
それでも、このような行動を獲得していくことは、お子さんの将来に大きな意味を持ちます。

後編では、こうした遊びの支援が、普段の生活をより穏やかに過ごすためにどれほど大切か、
さらに深くお話しします。

実は、幼少期の遊びの支援は、思春期・青年期にもつながっていきます。
情緒の安定やかんしゃく予防につながる、一人遊び習慣の作り方は【後編】で詳しく解説しています

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当相談室では、千葉県・東京都近郊を中心に、療育支援の専門家が家庭を訪問し、
お子さんの特性に合わせた遊び方や過ごし方を一緒に探します。

日々の生活の中で実践できる形でご提案し、情緒の安定や成長をサポートします。
出張相談を希望される方は、こちらよりお問い合わせください。

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