遊びを「教える」・「作っていく」という視点――重度のお子さんにとっての自由時間(前編)

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今回は、知的障害が重度のお子さんに焦点を当てた内容です

相談をお受けするお子さんのタイプはさまざまですが、実際には、知的発達に遅れのあるお子さんや、自閉スペクトラム症の特性が強く見られるお子さんに関する相談が多い傾向にあります。

こうした相談では、ことばやコミュニケーションの練習だけでなく、家族がリビングで過ごす何気ないひとときや、自由時間の過ごし方そのものが、大切なテーマになることが少なくありません。

「自由な時間」は難しい?

「自由な時間」と聞くと、何をしてもよく、好きなように過ごしていい時間という印象から、問題が起きにくい時間帯だと思われがちです。

ところが、自閉スペクトラム症の特性をもつお子さんや、知的な発達に遅れのあるお子さんにとっては、必ずしもそうとは限らないのです。

たとえば、重度の特性があるお子さんの中には、同じ場所を何度もうろうろと歩き回ったり、風や光が当たる場所でじっとたたずんでいたりする様子が見られることがあります。

大人が遊びに誘おうと声をかけたり、おもちゃや絵本を見せたりしても、反応が乏しかったり、まったく興味を示さなかったりすることもあります。

時には、自分のペースを乱されたと感じたのか、かんしゃくを起こしてしまうこともあるのです。

すると、「うかつに声をかけないほうがいいのでは…」「かんしゃくを起こされたら困る…」と、大人の関わり方が消極的になってしまうことがあります。

その結果、困った行動が始まっても、大人は関われなくなってしまいます。どうすることもできず、見守るしかなくなり、周囲にとって困る行動がエスカレートしていきます。

目に余る行動をなんとか止めようとしても、かえって荒れてしまい、ますます状況が悪化してしまう——そんな悪循環に陥るケースも少なくありません。

遊びを教える、遊びを作っていくという視点

「遊びや自由時間の過ごし方なんて、そのうち勝手に覚えるもの」と考える方もいるでしょう。

けれども、子どもにすべてを任せきりにしてしまうと、遊びがうまく発展しないばかりか、不適切な行動が習慣化してしまうことさえあるのです。

そういった場合には、むしろ大人の側から「遊びを教える」「一緒に余暇活動を作っていく」といった視点が必要になります。

今回は、重度の発達の遅れがあるお子さんを想定しています。

このような場合、年齢相応と思われるおもちゃやグッズを与えても、遊びに結びつかないことが多く、「ハズレ」になってしまいがちです。

中には、物を受け渡す以前に、相手の手に物があること自体に気づいていない場合もあります。

また、大人が手を添えて何かを持たせようとしても、手にまったく力が入っておらず、物を握ることさえできないこともあるのです。

こうしたお子さんに「おもちゃを買ってきたから遊んでみなさい」と伝えても、それだけで遊べるようになることは、ほとんどありません。

まずは、「どうやって遊ぶのか」、「そのためにどんな動きが必要なのか」、ごく基本的なことを、ひとつずつ丁寧に教える必要があります。

具体例はこんな感じです

たとえば、

  • お菓子の空き箱やパスタケースに穴を開けて、そこに小さなボールやストローを落とす
  • プラスチックのカップを黙々と積み重ねる。

こんなシンプルな動きからスタートします。

もちろん、その子にとっては決して簡単なことではありませんから、最初は大人が手を添えて、しっかりと動きを介助します。

そして、少しずつその手を離し、最終的にはお手伝いがなくても自分の力でできるようになることを目指します。

こうして文章にすると簡単に聞こえるかもしれませんが、実際にはかなりの根気が必要です。

子どもが「そんなことやりたくない!」と言わんばかりに、拒否の仕草を見せることもあります。

それでも諦めずに、粘り強く関わり続けていくことで、次第に遊びが上手になっていくのです。

何だか遊びっぽくない?押しつけがましい?

でも、それも立派な“遊び”です。

確かに親御さんのイメージとは異なるかもしれませんが、物を扱って過ごすことは、子どもにとって大切な遊びの時間です。

それに「最初はあんなに嫌がっていたのに、今ではまるで職人さんのように、すっかり板についてきたなあ」と感じるようなケースを、これまで何度も見てきました。

支援者側にも大きな意味があります

もちろん、子どもが遊びのレパートリーを一つでも獲得できたことは、それ自体がとても意義のあることです。

そしてそれは、支援者にとっても大きな意味を持ちます。

この子にとって大切な行動を、ちゃんと教えることができた」——そう実感できたときの達成感は、何ものにも代えがたいものです。

次回もこのテーマでお話します

こんなふうに、遊びの時間を“教えていく”ことには、たくさんの工夫と根気が必要です。けれど、それを家庭の中だけで行うのは、とても難しいこともあります。

当相談室では、お子さんの特性に合わせて、どんな遊び方や過ごし方が合っているかを一緒に探し、日々の生活の中で実践できるかたちでご提案しています。

「どう関わったらいいのかわからない」と感じたときこそ、ご相談ください。

次回は、こうした遊びの時間が、情緒の安定にどうつながっていくのかについてお話しします。

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