“1人で遊べる子”は伸びる──早期療育で最初に身につける力とは

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早期療育で最初にやるべきこと——「1人遊び」が子育てにもたらす効果

先日、私の出張相談の様子を、ある先生に動画で見ていただく機会がありました。
出張カウンセリングの進め方や、保護者への説明の仕方を知ってもらうためです。

見終わったあと、先生は目を丸くして私に尋ねました。

「カウンセラーとお母さんがこれだけ話し込んでいるのに、どうしてお子さんは静かにしていられるんですか?」

映像に映っていたのは、こんな場面です。

リビングで椅子に座った私とお母さんが、テーブルに資料を広げながら今後の方針について真剣に話し合っている。
そのすぐ近くで、3歳の未就園児の男の子が、おもちゃを広げて1人で遊んでいます。
親にちょっかいを出すこともなく、泣くことも叫ぶこともなく、穏やかに過ごしている——。

先生が驚いたのも無理はありません。私の教育相談では当たり前のように見られる場面ですが、多くの方にとっては、ちょっと意外な光景かもしれません。

「このお子さんは、人に興味がない子なんですか?」

そう思われても不思議はありませんが、決してそんなことはありません。
初回相談のお問い合わせには、「母にまとわりついて離れられない」と書かれていました。
実際、初めてご家庭を訪問したときには、何度も激しいかんしゃくを起こしていました。

言葉の遅れもありましたが、より深刻だったのは、母に構ってもらえないときに激しく不機嫌になり、暴れたり大声を出したりする行動でした。
この“人に興味がないどころか、母にしつこくまとわりつく”という姿こそが、教育相談の出発点でした。

そんなお子さんが、2回目の相談時には、親にまとわりつく様子がほとんど消え、3回目以降は一切見られなくなったのです。

もちろん、自然にそうなったわけではありません。


人から離れて過ごせる子を目指す

実は、出張カウンセリングで最初に目指すべきゴールは、
「親から離れても、安心して1人で過ごせる」という状態です。

具体的には、こんな切り替えの習慣を育てていきます。

  • お母さんが大事な話をしているときは、割り込んでも何も変わらない
  • でも、それは怖いことじゃない。1人で遊んでいれば大丈夫
  • 話が終わったら今度は僕の番。呼ばれたら、すぐにお母さんのもとへ行こう

こうした「切り替え」を、初回の相談から練習していきます。

そしてこれは、親にべったりなお子さんだけに必要な練習ではありません。
私の教育相談では、すべてのご家庭がこの練習からスタートします。

なぜか?

確かに、大人同士が真剣に話している最中に、子どもが割り込んでくるようでは、相談自体が成り立ちません。
でもそれ以上に、もっと根本的な理由があります。

1人遊びの習慣が定着すれば、その後の「育ち」全体にとって極めて大きな意味をもつからです。


「ちょっと待って」は通じない——親にまとわりつく行動が強化されるメカニズム

本来、子どもが親から離れて過ごすべき場面は、日常生活のなかにいくらでもあります。
たとえば、台所で火を使っているとき、掃除をしているとき、夫婦で大事な話をしているとき——あるいは、親がただひと息つきたいとき。数え出せばきりがありません。

ところが、子どもは親の都合を理解できません。
とくに、知的な遅れや自閉症状のあるお子さんにとっては、「ちょっと待ってね」という言葉自体が意味を持たないことも多くあります。

そうすると、どうなるか。
泣く、騒ぐ、怒る、まとわりつくといった行動のほうが、親の注意を引くのに“確実で効果的”な手段になってしまいます。
つまり、かんしゃくや接近行動そのものが、親の反応によって強化されてしまうのです。

その結果として、

  • 何かあるたびにすぐに泣き叫ぶ
  • 常に抱っこを求めてくる
  • 少しでも無視されると大声を出す

といった、“興奮を外に向ける行動”が習慣化していきます。

こうした状態が続くと、子どもの言葉の発達や他者との関係づくりにも悪影響が出はじめます。
そして、「どう接してよいかわからない」「落ち着いた時間がまったく取れない」と悩んだ保護者が、私の相談室にたどり着くことになるのです。


子どもにとって、1人遊びは大切な“スキル”です

親が子どもに関われない時間は、どんな家庭でも日常的にあります。
そうした場面は避けようがありません。

それでも、「親はいつも子どもに寄り添うべき」「求められたら応じなければ」という思い込みが強くなると、
気づかないうちに、親が子どもの要求に振り回され続けるようになります。

子どもが泣けば応じ、騒げば対応し、結局“子ども主導の生活”になってしまう。
これは、親にとっても子どもにとっても、決して望ましい状態とは言えません。

では、そんなとき、子どもはどう過ごせばいいのでしょうか?

その答えが、「1人遊び」です。

親にベタベタとまとわりつかず、興奮して大声を出すでもなく、静かに1人で遊ぶこと。
これは、幼児期に身につけるべき大切な“生活スキル”のひとつです。

そしてスキルである以上、「そのうち自然にできるようになるだろう」とは考えません。
子どもにとって必要な力なら、大人が丁寧に教えていく——その姿勢が大切です。

1人遊びの習慣が身につけば、

  • 言葉やコミュニケーションが育ちやすくなり、
  • 感情の波が落ち着きやすくなり、
  • 他害や過度な依存といった行動障害の予防にもつながります。

この“1人で遊ぶ力”は、子ども自身の安定した発達の土台にもなるのです。


むしろ保護者にとっても大きな意味

幼児期の子どもが、泣きわめきながら親にまとわりついてくる。
どう接すればいいのか分からず、戸惑い、疲れ果ててしまう。
これは、多くの親御さんが抱える切実な悩みです。

そんなとき、1人遊びの習慣が身についていると、状況は大きく変わります。

  • 子どもが落ち着いて1人で過ごせる。
  • 親が話したいときに話し、休みたいときに休める。
  • 家庭の時間が、ぐっと穏やかになります

この変化こそ、記事の冒頭で先生が驚いていた「相談中、子どもが静かに遊んでいる姿」の背景にあるものです。

そして、この“穏やかに過ごす力”は、ただ自然に育つものではありません。
多くの場合、親御さんが根気強く教え、何度もやり直しながら築いてきた努力の成果です。

とくに「イヤイヤ」が激しくなりがちな2〜3歳の時期に、このスキルが育っていれば——

それは、まぎれもなく親御さんの子育ての勝利です。

どれだけの苦労と忍耐があったか、私はよく知っています。
だからこそ、その努力を心から称賛したいのです。


終わりに——早期支援は、親の成長にもつながる

今回取り上げた「1人遊び」は、一見すると地味なテーマに思われるかもしれません。

しかし、「すべてのご家庭」で「初回の相談から」練習を開始するくらいですから、当相談室では、幼児期の支援の中でも、最重要課題と位置付けています。

そして今回の記事では、「練習」という言葉を繰り返しました。

適切な指導の下で練習を繰り返せば、何事も上達します。1人遊びはもちろん、子育て全般を通じて言えることです。

親御さんの成長に携われることが、私の仕事への原動力となっていることは間違いありません。

本当に残念なことですが、世間で語られる“良い子育て”が、気づけば「子どもに振り回されること」になっていると感じる場面も少なくありません。

そのような方はこの記事を読んでも違和感だらけかもしれませんし、きっとここまで読まれていないでしょう。それはそれで自然なことです。

「一緒に子育ての練習をしたい」と感じられた方は、是非他の記事やページもご覧ください。そしてご縁があれば、出張カウンセリングでお会いしましょう。 早期の支援が叫ばれる理由は、子どもの健やかな発達という側面もありますが、それだけではありません。むしろ「親の成長」こそ、より重要と当相談室は考えています。


今回の記事は、過去にアップされた記事とも深く関係しています。
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