“今は困っていない”が一番こわい──強度行動障害という言葉、知っていますか?

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療育で一番知っておいてほしい言葉──「強度行動障害」のお話

私は、出張カウンセリングを通じて──
10年以上にわたり、家庭への直接支援を続けてきました。

ご相談に来られる親御さんの悩みは実に様々。
そして、お子さんのタイプもまさに十人十色です。

それでも支援の中で、「すべてのご家庭に共通する目標」と、
はっきりと言い切ることができるものが、実はあります。

それが──

強度行動障害の予防

これが、すべての支援の“土台”になると私は考えています。

もし「強度行動障害」という言葉を聞いたことがなければ、
まずはYouTube などで検索してみてください。

映像を通して、当事者の方が直面する厳しい現実、
そして家族の苦悩を知ることができます。

文章より、まずは目で見る方が伝わるはずです。

ただ、ここでひとつ気をつけていただきたいのが──

あれは大きくなった子の話でしょ? うちはまだ2歳だから関係ない…

そう思ってしまうことです。

けれど、それは大きな間違いです。

たしかに、強度行動障害として正式に「判定」されるのは、
思春期や成人期以降になる場合もあります。

でも実際に、ご家庭の困りごとが始まっていたのは──
その何年も前、まだ幼児期だったというケースが本当に多いのです。

このブログでは、療育の現場で見てきたリアルなケースを交えながら、
「強度行動障害」というテーマについて、
今お子さんが小さいご家庭にも、“関係ある話”としてしっかりとお伝えしていきます。


強度行動障害ってどんな状態?──分かりやすい言葉で整理すると

一言で強度行動障害と言っても、実際に行動は様々です。

普段の相談でお伝えするような、分かりやすい言葉でまとめました。

自分を傷つける行動が続く
頭を打ちつける、皮膚をかきむしる、噛む、道具で自分を叩く など

他人に危害を加える行動がある
叩く・蹴る・引っかく・噛みつく・髪を引っ張る など

あまりにも強いこだわりがある
本人の決めたやり方や順番からズレると、大きく混乱してしまう

物を壊したり投げたりする
日常的に家具や道具を壊す、投げて周囲に危険を及ぼす

生活が大きく乱れる行動
昼と夜が逆転してしまう、食事を極端に拒む/過食する、大便を壁にこすりつける

多動、興奮、パニックなどが頻発する
危険な場所でも走り出す、大声で長時間泣き叫ぶ、パニックが全く収まらない

周りの人が恐怖を感じるような荒い行動
親や支援者が近づいただけで突き飛ばす、注意されただけで机をひっくり返す

どれか1つだけでも、生活は十分困難になりますが、
実際には、これらの行動がいくつも組み合わさって現れることがほとんどです。

家庭生活も、幼稚園などの集団生活も極めて困難となることが
容易に想像できるかと思います。


“困っているのに”スルーされる理由──子どもの手が“もみじ”だから

かんしゃくが激しくて、興奮すると叩いたり噛んだりしてくる。

それでも、早期の支援につながりにくいのには──理由があります。

でも、まだこんなに小さいから…

確かに、2歳の子どもが、可愛いもみじのような手でお母さんを叩いても、
あざや傷が残るほどではないかもしれません。

大声で泣き叫んでも、じたばたしても、
「イヤイヤ期でよくあること」と片付けられることもあります。

「言葉が出ないから、仕方ないよね」
「本人も伝えられなくてつらいんだよね」

このように、「言葉が遅れているから荒い行動も致し方ない」として扱われることも多いです。

でも、それが──
3歳、4歳、5歳、そして小学生と成長していくとどうでしょうか?

体は大きくなり、力も強くなります。
泣き声や叫び声も、どんどん大きくなっていきます。

そしていつからか、
子どもが“今までと同じ行動”をしただけなのに──

それが「暴力」とみなされるようになります。

強度行動障害のような、日常生活を大きく揺るがすような行動は、
突然始まるわけではありません。

思春期や青年期にようやく「判定」がついたとしても、
その行動の“芽”は、幼少期から確かに存在していたというケースがほとんどです。

「判定」は後から、でも「発生」はもっと前から──
ということが起こりがちなんです。


「強度行動障害かもしれない」と思ったとき、私がまずお伝えすること

もし出張カウンセリングの中で──

これは強度行動障害の「芽」だな…

そう私が感じたときは、
ご家庭に対して、はっきりと、率直にそのことをお伝えします。

親御さんからすれば「まだそこまで問題は出ていない」と思えるかもしれません。
しかし、初めてお会いした時点でも、すでに“芽”が育ち始めているケースはたくさんあります。

だからこそ──
2歳・3歳という幼い年齢から、「予防」の視点で関わっていくことが何より重要だと、私は考えています。

今は問題として目立っていないように思えるかもしれませんが、
実は既に芽が育っていること、そして“将来起こり得る困りごと”について、
2歳・3歳から予防的に支援していく視点がとても大切なのです。

親御さんの中には、こんなふうに感じる方もいらっしゃいます:

ちょっと大げさでは…。うちはそこまで深刻ではないような…

確かに、「強度行動障害」という言葉は重く、
最初はピンとこなかったり、どこか人ごとのように思われるかもしれません。

それでも、私はこれまでの支援経験や、実際の映像資料などをもとに、
「こういう未来が起こりうる」ということを、ていねいに、誠実にお伝えします。

…これは他人事ではないですね

私にとっては、
「納得していただくまでお話しすること」も支援の一部だと思っています。

そして、そう感じてくださった時点で、
予防的支援のスタートラインに、ようやく一緒に立てたと感じるのです。


今ならまだ届く支援──予防のチャンスを逃さないために

私は、支援者として、ご家庭に誠実でありたいと思っています。

このままでは将来かなり厳しくなる可能性があります

と、正面からきちんとお伝えしなければならない場面もあるのです。

しかし、こうした説明をしてもなお、

「そこは気にしていないので大丈夫です…」
「それよりも言葉が出る練習をもっと…」

と、おっしゃるご家庭もあります。

そのような場合、私は相談の途中でも、支援をお断りすることがあります。
もちろん、強度行動障害の可能性や、今後の生活が難しくなるリスクについては、
きちんと事前にお伝えしています。

その後、直接あるいは人づてに、状況が悪化してしまったことも、
一度や二度ではありません。

私がこのような話をするのは、
幼少期から支援が届く機会を見過ごさないでほしくないという想いからです。

とにかく、予防のタイミングを逃さないでほしいのです。


予防にいちばん効くのは、「幼少期からの支援」です

強度行動障害の予防において、もっとも効果があるのは──
“幼少期から始める支援”です。

これは、私がこれまで数多くのご家庭と関わってきたなかで、何度も目にしてきた事実です。
2歳や3歳の段階で、小さなサインに気づき、遊び方や関わり方を工夫することで、
その後の生活のしやすさ、親子の関係、社会とのつながりまで変わるケースはたくさんあります。

私は支援の中で、こんな提案をよく行っています:

  • 家族みんなが穏やかに過ごせる「生活の組み立て方」
  • 子どもが安心してできる「遊びや作業」の導入
  • 親御さん自身の負担が増えすぎない、現実的な支援のやり方

これらはどれも、“今この瞬間”にすぐ役立つだけでなく、将来の困りごとを防ぐ土台にもなります。

より具体的で実践的な内容については、これまでの記事でも紹介しています。

👉落ち着く力を育てる一人遊び──社会適応と強度行動障害予防のために(後編)
👉眠れない夜に悩む前に。“ひとり寝”が子どもと家庭を守る理由(後編)


“今”が未来を変える──5年後・10年後の暮らしのために

「強度行動障害」という言葉が決して“特別な誰かだけの問題”ではありません。

今目の前にいるお子さんの「未来のかたち」に関わるテーマだと、
少しでも実感していただければありがたいです。

支援がうまくいくケースの鍵は2つ──

  1. 早いタイミングで支援をスタートすること
  2. いま目の前にある課題を、“未来のリスク”として予防的に見ること

この2つがあるだけで、子どもの育ち方も、家族の未来も大きく変わっていきます。

今の行動、今の関わり方、今の環境づくり。
それが、5年後、10年後の暮らしのしやすさに直結します。
そして何より、お子さん自身の“生きやすさ”にも、大きく影響するのです。

より詳しく、家庭でできる工夫や支援のヒントを知りたい方は、
以下の記事もぜひ参考にしてみてください。

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  • サポート内容: ご家庭での療育支援、親御さんへの具体的アドバイス

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