「2歳・3歳でも言葉が出ない理由」──発語を止めている“生活のパターン”とは?(前編)

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相談のきっかけは、いつも「言葉の遅れ」や「言葉が出ない不安」

「2歳を過ぎても、まだ言葉が出てきません…」

「3歳まで様子を見ましょうと言われました…」

「発語の遅れが心配で、毎日不安です」

——出張カウンセリングの問い合わせには、親御さんの深い悩みが綴られています。

この10年分の相談メールを振り返ってみたところ、
その全てに「言葉が出ない」「言葉の遅れ」といった表現が使われていました。

療育支援では、このテーマを避けて通ることはできません。
子どもの“言葉が遅い”という悩みは、まさにすべての入り口なのです。

出張カウンセリングでご家庭に伺い、親御さんとお話を始めると、
ほとんどのご家庭で、こう尋ねられます。

どうやったら話せるようになりますか?
言葉が出ない原因は、何が考えられますか?
家でできる言葉の練習方法はありますか?
このままで、うちの子は喋れるようになるでしょうか?

それだけ、「子どもが喋らない」「発語がない」ことは、ご家族にとって切実な悩みなのです。


「どうすれば喋れる?」よりも大事なこと――“発語のヒント”は日常にある

どうしたらこの子が喋れるようになるのだろう?

と、不安に思う親御さん。
一方で、支援者である私が最初に考えるのは——

この子と親御さん、普段どんな毎日を送っているんだろう?

この問いから、支援を始まります。

「言葉の練習方法」を探している親御さんと、
「生活の中に発語のヒントを見つけようとする」支援者。

なんだか、すれ違っているように見えるかもしれません。
でも、目指しているゴールはもちろん同じです。

子どもが喋らない背景には、必ず理由があります。
そして、発語を促すためのヒントは、日常の中に隠れていることがほとんどです。

言葉を引き出すカギは、どこか特別な場所ではなく、
ふだんの暮らしの中にこそあるのです。


「どうして喋らないの?」じゃなくて、「この子、どうやって生きてるの?」

支援のスタート地点で本当に大切なのは、
「どんな練習をすれば喋れるようになるか?」ではありません。

この子が、どんな毎日を、どんなやり方で生きているか、丁寧に観察することです。

  • 何に興味があるのか?
  • どんな遊びを好むのか?
  • 好きな食べ物・飲み物は?
  • 誰と、どんなふうに関わっているのか?

まるで名探偵コナンくんのように、
子どもの“生活の現場”を観察して、言葉の発達に関するヒントを拾い集めていくのです。


たとえば、毎日ジュースを飲んでいる子がいたとしましょう。
定型発達のお子さんであれば、言葉の発達の目安として、

  • 1歳すぎ:「ジュース」(単語)
  • 2歳ごろ:「ジュース、のむ」(二語文)

といった形で、言葉によって要求する様子が見られることが多いです。

では、まだ言葉が出ていないお子さんは、どうしているでしょうか?
実際の場面では、支援者の頭の中に、こんな声が聞こえています。

「ワーワー」大声で泣いているな。なるほど…

お母さんの腕を引っ張ってる。結構、力が強いぞ…

壁に向かって積み木を投げてる。このパターンか…

ジュースを手に入れる手段は、子どもによってさまざまです。

観察すべきなのは、“言葉があるかどうか”ではなく、「今のこの子のやり方」。
それが、言葉が出ない理由や背景を読み解くヒントになります。

子どもがどんなふうに生きているのか――
そこに目を向けることから、すべてが始まるのです。


親子のやりとり全部が、犯人を追い詰めるヒントになる

出張カウンセリングでご家庭を訪問するとき、
私が注目しているのは、親子のやりとりすべてです。

観察するのは、もちろんジュースだけではありません。

  • ピタゴラスイッチが好き? 誰が、いつ、どんなきっかけでテレビをつけている?
  • ぬいぐるみを絶対に離さない? お母さんが洗濯に出したら、どんな反応をする?
  • さっきまでずっと泣いていた子が、親の近くに寄ってきて、モノを投げ出した…

こうしたひとつひとつやりとりが積み重なることで、
行動のパターンが、はっきりと浮かび上がってきます。

そして見えてくるのは、こんな構図です。

  • 言葉を学習しなくても、欲しいものは手に入る
  • やって欲しいことも叶ってしまう
  • 言葉がなくても、日常生活が成り立っている。

言い換えれば——
その子にとって、「言葉を覚える必要がない環境」になってしまっているのです。

これが、言葉の発達を静かに止めてしまう、最大の犯人なのです。


次回予告:言葉の発達を止めている“黒幕”の正体とは?

どうしたら、この子は喋れるようになるんでしょうか?

——この問いへの答えは、意外なほどシンプルです。

「言葉の学習を邪魔している行動」を、生活の中からゼロにすること

「言葉の獲得に必要な行動」を、日常生活に取り入れて、どんどん増やすこと

つまり、言葉を覚える“環境”を整えることが、最初の一歩なのです。

ところが——
それが“簡単にはいかない理由”も、支援の現場でははっきりしています。

ここまで、少しぼかしてきましたが…
実は、十中八九「これが言葉を止める犯人だ」、という行動パターンは、すでに見えているのです。

しかもこの犯人、なかなかの厄介者です。
子どもと親御さんに巧妙に寄り添ってくる、かなり手ごわい相手です。


後編では、この“黒幕”の正体を明らかにし、
どうやって言葉の発達を促していけばいいのかをお伝えします。

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