2歳・3歳で言葉が出ない原因は“2人の犯人”──支援現場で分かった意外な落とし穴(後編)

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2歳・3歳で言葉が出ない原因は何か——。
支援の現場で何度も遭遇した「2人の犯人」を紹介します。
一見まっとうな親心や日常の習慣が、発語を静かに止めているかもしれません。

目次

2歳・3歳で言葉が出ない原因——“2人の犯人”とは?

2歳・3歳になっても言葉が出ない——。
その原因はひとつではありませんが、支援の現場で何度も遭遇する「強力な2つのパターン」があります。

前回の記事では、

  • 言葉を覚える“環境”を整えることが、支援の第一歩
  • ところが、その環境づくりを邪魔する“厄介な存在”がいる

この2点をお伝えしました。

👉 前編はこちら:「2歳・3歳でも言葉が出ない理由」──発語を止めている“生活のパターン”とは?(前編)

今回は、その“2人の犯人”の正体を明らかにします。
では、ひとつずつ見ていきましょう。


犯人その1:強い興奮を伴う行動(かんしゃく)

最初の犯人は、「かんしゃく」や「強い興奮を伴う行動」です。
泣く、大声を出す、地団駄を踏む、物を投げる、叩く——。
こうした行動が、日常的な“要求の手段”として定着してしまっている場合、早期の介入が必要です。

0歳の赤ちゃんが泣いて訴えるのは、年齢相応の大切な自己表現です。
しかし2〜3歳になっても、「わめく・怒る・暴れる」ことで欲しいものや注目を得る習慣が続いていると発語やコミュニケーションの発達にブレーキがかかります。

さらに、この“かんしゃくルート”を放置すると——

  • 他害(他の人を叩く・噛む)
  • 物の破壊
  • 生活リズムの崩壊

といった形で、行動障害の入り口になることもあります。
これは過去の記事でも繰り返しお伝えしてきた重要なテーマです。

👉 その行動、将来どうなる?──強度行動障害を「他人事」にしないために


犯人その2:「まっとうな親心」

もう一人の犯人は——まっとうで、優しくて、正しすぎる親心です。

  • 子どもが泣いたら、抱きしめてあげたい
  • かんしゃくでも、「伝えようとしている」姿を受け止めたい
  • 言葉が出ないのだから、怒ってしまうのも仕方ない

どれも、親として当然で、愛情あふれる反応です。
私だって、学生の頃なら「これが自然だ」と、疑いもせず信じていたでしょう。

しかし現場に出ると見えてきます。
この優しさが、次のような行動パターンを確実に強化してしまうことを——

  • 泣き叫べば、親の注目と抱っこが手に入る
  • 大声を出せば、テレビや動画が始まる
  • 終わりと言われても泣き崩れれば、「もう一つだけ」が返ってくる

つまり、「暴れれば世界が動く」「言葉は必要ない」という学習が成立してしまっているのです。

そんなつもりはないんです…

はい、もちろん分かっていますよ


親御さんに悪意なんてありません。
それでも、愛情とは無関係に「行動が強化される構造」は確実に存在します。
そして、このまっすぐな愛情こそが、問題を難しくしている本質なのです。


支援は早ければ早いほど、言葉の発達に効果的

ここまでの内容は、親御さんにとって胸が締め付けられる話だったかもしれません。
実際の支援現場でも、私は毎回言葉を選びながら、慎重にお伝えしています。

10年以上現場で支援をしてきた私から、ひとつだけ強くお伝えしたいことがあります。
それは——

この山を一緒に乗り越えませんか?

という、早期支援の提案です。


たとえば、知的な発達に大きな遅れがあり、発語もまだない2歳のお子さんがいたとします。
上記の犯人たちに立ち向かうため、出張カウンセリングでは、こんなことに取り組みます。

  • 興奮して泣く・わめくといった行動を無力化する
  • かんしゃくに代わる新たな方法を練習し、生活の中に取り入れる
  • 親御さんが納得して取り組めるようにサポートする

この時期に始めれば、練習時間も成功体験もたっぷり確保できます。
そして何より、親御さん自身が前向きな子育てに早く取り組めます。

実際、支援を受けた親御さんの多くがこう話します。

もっと早く相談しても良かったと思います


一方、そこからさらに数年経ってしまうと——

  • 興奮・かんしゃくによる発達のブレーキがより強くなっている
  • 新しい習慣を作る難易度が確実に上がる
  • これまでの子育てを見直すことに強い抵抗を感じる

「子育てが否定されている気がする」、「今さら…という気持ちがある」
そう感じる親御さんも少なくありません。

だからこそ、支援の開始は一日でも早く。
それが、ご家庭とお子さんにとって、大きな分岐点になるかもしれません。


「良い支援」には、必ず“一時的な嵐”がやってくる

ここで、支援がうまくいくかどうかの大きなポイントがあります

実は、かんしゃくや興奮を無力化するアプローチを始めると、
一時的に、行動が激しくなることがあります。

  • 今まで以上に大声を出す
  • これまで見たことがないくらい強く暴れる
  • 親にしがみついて離れない

これは専門的には「バースト」と呼ばれています。
それまで有効だった行動が効かなくなったとき、まるで“最後のあがき”のようにも見える現象です。


でも親御さんからすれば、こう思うはずです。

これ、前より悪化してない?
こんな我が子、見ていられない…

そう感じるのは自然なことです。
でも、この嵐を乗り越えた先にしか、本当の変化はありません。

だから支援者は、バーストが起きるタイミングをあらかじめ予測し、丁寧に説明する責任があります。
そして、親御さんにも、その波に備えるための“心の準備”が必要です。


……とはいえ、ここで想像してみてください。

2歳と6歳、バーストは同じ強さだと思いますか?

6歳の子が本気で暴れたら、お母さんひとりでは止められないかもしれません。
だからこそ——支援は早ければ早いほどいいのです。


終わりに——迷わず一歩を踏み出すために

正直に言えば、この記事を書くには少し覚悟がいりました。
なぜなら、教育や支援の現場で根付いている“空気”や“常識”に逆らう内容だからです。

それでも——10年以上、現場で多くのご家庭と向き合ってきたからこそ、
もう「言わずにやり過ごす」ことはできませんでした。

かんしゃくや強い興奮は、“そっと見守る”のではなく、できるだけ早く無力化する。
それが、言葉の発達にとっても、将来の社会生活にとっても、確実にプラスになります。

もちろん、これは決して簡単なことではありません。
ですが——方法は必ずあります。

その方法をお伝えして、ご家庭を支えるのが、私たち専門家の役目です

もし今、お子さんの「言葉の遅れ」や「かんしゃく」で迷っているなら——
今日からでも相談していいのです。
その一歩が、お子さんの未来を大きく変えるかもしれません。


当相談室は、千葉県・東京都エリアを中心に、出張カウンセリングを行っています。
療育の専門家が家庭に直接うかがい、お子さんへの直接指導、親御さんにアドバイスします。
お問い合わせはこちらからどうぞ。

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