言葉の発達を止める“2つの犯人”
前回、言葉の学習を阻害している犯人がいるとお伝えしました。そして、その犯人を無力化し、代わりに良い行動を練習することが大切ともお話しました。
👉「言葉が出ない」——その本当の理由はどこにあるのか?(前編)
さて、今回はその犯人に迫りたいと思います。全ての相談に当てはまると言い切ることはしませんが、あの毛利小五郎さんでも、かなり高い確率で「犯人はあなただ!」と言い当てることができるくらいです。
【念のため…】
もちろん、言葉の遅れにはさまざまな要因があり、その対応も様々です。ここでお話しするのは、支援の現場で圧倒的に多く目にしてきたパターンについてです。当たり前ですが、すべてのケースがこの通りとは限りません。多くの現場で繰り返し見られる傾向とお考え下さい。
かんしゃく・興奮の落とし穴
犯人1:かんしゃくなど、強い興奮を伴う行動
具体的には、泣く、大声を出す、地団駄をふむ、物を投げる、叩く、などです。もちろん0歳の赤ちゃんのように、まだ生理的欲求がほとんどの時期であれば、「泣く」はとても大切な行動です。ところが、そんな時期をとっくに過ぎた、2歳・3歳の年齢であれば、どうでしょうか?要求の手段として、泣く・わめく、怒る、暴れるなど、興奮を伴った行動が常態化しているとすれば、言葉の発達にブレーキをかける要因と考えて、まず間違いありません。
さらに、恐ろしいのは、言葉の遅れ以上の問題まで孕んでいるという点です。些細なことで興奮してかんしゃくを起こすと、他害や物壊し、生活リズムの乱れなど、行動障害の出発点となります。この観点は、これまで何度もブログで警告してきました。
👉 その行動、将来どうなる?──強度行動障害を「他人事」にしないために
「まっとうな親心」が生む誤解
犯人2:まっとうな親心
※先にお伝えしますが、勇気を出して相談を申し込まれた親御さんを、教育相談で責めることは一切ありません。
- 子ども泣いてわめいたら、抱きしめてあげるのが親として当然の努め
- たとえかんしゃくであったとして、我が子が発信したことを受け止めてあげたい
- 言葉が出てこないのだから、思いが伝わらない怒りから、乱暴になってしまうのは仕方ない
これらです。非の打ち所がない考えと思いませんか?
私だって、大学生の頃だったら「その通りだ」と疑いもしなかったと思います。
ところが、現場に出てから今も尚、これらがいかに恐ろしいものかと痛感しています。
- 泣いてわめいたら、親からの注目と抱っこをゲット
- 大声を出したら、ピタゴラスイッチの映像がモニターにON
- 「これでおしまい」と言われ、ひっくり返って暴れたら、見かねた大人が「もうひとつだけよ」
これらは、「わめけ」「大声を出せ」、「暴れてみろ」と伝えてしまっているに等しいですし、「言葉なんて覚えなくていいのよ」ということになってしまうのです。
もちろん親御さんにそんなつもりがないことは、百も承知しています。
ちなみに、「うちの子はかんしゃくは起こしません」という親御さんもたまにいらっしゃいますが、支援者が「では、こうしてみてください」とお願いするとすぐに大暴れになる、こんなことは日常茶飯事です。
さてさて、この犯人たち、一体どうすればよいものでしょうか?
支援の開始が早いほど、道は広がる
結論。だから早期支援が大切なのです。
たとえば、知的に重度の遅れがあるお子さんに、かんしゃくに変わる新しい方法を練習し始めたとします。それを2歳から始めるのと5歳から始めるのでは、どれほど違うかが分かりやすいと思います。
もし2歳から支援を開始すれば、就学前までに言葉で意思表示できるようになることも大いに考えられます。ところが、5歳からの開始ともなれば、現実問題として、それまでの悪い習慣を完璧に断ち切ることは、かなり難しいです。何より、2歳から開始した子に比べて、就学までたった1年しかありません。
低年齢で支援を開始する方が、学習が進むのは当然です。
良い支援には、一時的な“嵐”がある
かんしゃくや興奮を無力化するアプローチを開始すると、これまで以上に大声を出す、暴れるということが、一時的にではありますが、起こる場合があります。専門的には「バースト」と呼ばれるのですが、親御さんからすれば「逆に悪くなっているのでは?」、「こんな我が子見ていられない」と思うくらい、激しい場合だってあります。
これを乗り越えるためには、もちろん専門家がバーストを予測し、親御さんにあらかじめ見通しを伝える必要があります。事前の覚悟も大切です。
とはいえ、ここで考えてみましょう。激しいかんしゃくといっても、「2歳」、「3歳」、「4歳」で同じでしょうか?
同じなわけがありません。
5~6歳の子どもが本気で大暴れしたら?
お母さんではもう止められないかもしれません。
終わりに――この記事を書くには、覚悟が必要です。
それはもちろん、多くの教育関係者を敵に回すということですから…。でも、10年以上この仕事を続けていると、腹をくくって言わなきゃな、とも思います。
- 興奮やかんしゃくは、さっさと無力化しましょう。
- その方が言葉の発達にも社会性においても好ましいです。
- 困難はもちろんありますが、その乗り越え方は、具体的に丁寧にお伝えします。
一緒に頑張りましょう。
本記事の前編はこちら。

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