前回の続きです
今回の記事は、
👉遊びを「教える」・「作っていく」という視点――重度のお子さんにとっての自由時間(前編)
の続きになります。
前回の記事では、“遊び”をどう教えていくかをお伝えしました。今回はその続きとして、“遊び”が子どもたちの情緒の安定にどう影響を与えるのか——その力について、掘り下げてみたいと思います。
情緒の安定と遊びの習慣
知的な遅れが重たいお子さんや、自閉スペクトラム症の特性が強いお子さんの場合、いつもと違う環境に置かれたり、思い通りにいかない場面に出くわしたりすると、かんしゃくを起こして荒れてしまうことがあります。
実は、そんなときこそ「遊び」がとても大切になってきます。
ふだん機嫌がよい時から、遊び——特に一人遊びに没頭する習慣をつくっておくことが大切です。
「機嫌が悪くなったときだけ、おもちゃを渡して気をそらそう」という対処的なイメージではありません。
ポイントは、「ふだんから」「日常の中で」遊びを習慣にしておくこと。
そこに、意味があるのです。
落ち着いた姿勢から始まる情緒の安定
遊ぶときの姿勢・体勢も、実はとても重要です。
立ったままや、うろうろ歩き回っている状態は、とても落ち着いているとは言えないですよね?
椅子や床にお尻をぺたんとつけて、手を動かすことに没頭する——そんな過ごし方も、ぜひ習慣にしていきたいポイントです。
イライラや興奮を自力で収める
このような習慣がしっかり身についていると、たとえ思い通りにいかずイライラし始めたようなときでも、おもちゃやグッズを見ることで、一人遊びに切り替えられるようになります。
そして不思議なことに、黙々と遊びに没頭しているうちに、かんしゃくや興奮が次第に落ち着き、また穏やかに過ごせるようになっていくのです。
激しい興奮やかんしゃくの状態を抑えつけながらカームダウンの場所に連れていくのではなく、ごく最小限の支援を目指します。
これらは、決して絵空事ではありません。
正しいやり方で丁寧に取り組めば、どんなお子さんでも、必ず実現することができるのです。
つまり、一人遊びのレパートリーを増やし、それが日常の中で当たり前の習慣になっていくと、イライラや興奮を自分の力で落ち着けられるようになっていきます。
そして実は、これこそが——社会への適応に向けた、大きな分かれ道になるのです。
社会適応の分かれ道
穏やかでニコニコしている人は、まわりから自然と愛されます。
そして、情緒的に落ち着いた状態で過ごせれば、日々の生活の中での学習もスムーズに進みます。
特に、知的な発達に遅れがあるお子さんの場合、生活習慣を身に付けるために、さまざまな支援が欠かせません。
そのとき、些細なことでかんしゃくを起こしたり、拒否を繰り返したりするお子さんと、
介助や支援をすっと受け入れられるお子さんでは、どちらが生活習慣を身につけやすいか——言うまでもありません。
より深刻な問題——強度行動障害
では逆に、イライラや不満を自分の力で落ち着けることができなかったら、どうなるでしょうか?
十中八九、その矛先は親や支援者に向けられたり、物に当たったりします。
(物に当たる行動は、ほぼ確実に他人の注意を引くことができます。)
こうした行動が積み重なっていくと、より深刻な困りごとへとつながるケースもあります。たとえば、強度行動障害などがその一例です。
強度行動障害を取り上げたドキュメンタリー番組では、興奮した際に人に向かっていく、腕に掴みかかる、物を投げたり叩いたりする——そんな場面が、必ずと言っていいほど映し出されます。
では、そうした行動が、青年期や成人期になって、突然現れたのでしょうか?
ほとんどの場合、そこには幼少期からの積み重ねがあったはずです。
強度行動障害の出発点
「ごく些細なことで激しいかんしゃくを起こす」「大きな声で喚いてすぐに抱っこを求める——そして大人がそれにすぐ応じる」。
もし、ある程度の年齢になっても、こうしたパターンが頻繁に見られるようであれば、それはまさに強度行動障害の出発点と言えるでしょう。
やっぱり予防の視点が大切
強度行動障害の予防の重要性については、過去の記事でもお伝えしました。
👉 その行動、将来どうなる?──強度行動障害を「他人事」にしないために
きちんとした遊びが日々の習慣になるということは、興奮を落ち着かせる力を育てることにもつながります。
つまりそれは、将来的な他害や物の破壊といった行動を未然に防ぐことにつながります。
やはり、年齢が小さいうちからの積み重ねが、何より大切だということですね。
支援の力が届きやすい幼少期だからこそ、今できることを丁寧に積み重ねていきたいものです。
当相談室のホームページも、ぜひご覧ください。
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