「保護者の声」シリーズ第3回です
「保護者の声」シリーズでは、親御さんのリアルな声を一切編集せず、そのままの形でお伝えしてきました。
👉 早期発達支援のあるべき姿──2歳3か月で相談されたお母さんの声
👉 “様子見でいいのか”と考え続けた日々──1歳8ヵ月で相談されたお母さんの声
今回は、少し趣向を変えて、支援者と親御さん両方の言葉や視点を交えながら記事にしました。初回相談の雰囲気や緊張感が伝わるようにお話したいと思います。もちろん、過去記事と同じように、この記事の言葉は親御さんから直接いただいた、そのままの言葉です。
ふりかけ事件から始まる“違和感”
あるご家庭の初回相談。相談したい項目の中に、こんな内容がありました。
- 「ふりかけをかけないとご飯を食べない」
- 「偏食がひどい」
「偏食」——それは、好き嫌いが激しいとか、食べられる食材に偏りがあるという意味で使われます。
しかし、出張相談でご両親の話をうかがいながら、「何かが違う」と違和感を覚えました。あらかじめ食事場面の様子を動画で記録するようにお願いしていました。それを確認したところ、その“違和感”は確信に変わりました。
「暴君」と「召使い」。食卓で何が起きていたか?
当時A君は2歳半。食事のたびにふりかけを要求しますが、その様子は尋常ではありませんでした。
- 親が食卓に出したふりかけを見て、A君は「イヤだ!」と叫び、机を叩き、ふりかけを床に投げる。
- 親が「今日はピンク(サケ味)にしようよ?」と提案しても一切受け入れず、自分が望んだ色以外は認めない。
- 望んだふりかけが無いと、床にひっくり返って「バカ!」「食べない!」と絶叫しながらかんしゃくを起こす。
- 同居の祖母が近くのコンビニに買いに走るも、お気に入りの「すみっコぐらしふりかけ」ではなく「ポケモンふりかけ」だと分かると再び大荒れ。
- 母が電話でスーパーの在庫を確認し、祖母が車で10分かけて再び買い出しに向かう。
- ようやく戻ってきても、ごはんが「ホカホカじゃない!」と怒り、ご飯の温め直しを要求する。
動画を見終えた私は、はっきりと言いました。

「お父さん、お母さん、これは“偏食”ではありません。親子が“召使い”と“暴君”の関係になっています」
お母さんは、涙ながらに「本当にその通りです」と答えてくださいました。
「偏食ではない」と気づいた瞬間
A君は1歳を過ぎた頃から発達の遅れを心配され、2歳になったばかりの頃に診断を受けていました。親御さんは真面目で熱心な方で、医師や支援者から「言葉が未発達なので行動で意思を伝えている」「要求をすべて叶えてあげて」と助言され、その通りに関わってこられました。
ですが、そうした対応を続ける中で、むしろ行動は悪化していきました。



「本当にこのままでいいのか?」
と悩み、ようやくたどり着いたのが、私の相談室でした。
教育相談では、今までの関わり方にいかに問題であったのか、丁寧に説明していきました。子どもにとって本当に必要な関わりは何か、大人としてどう接するべきか——それを一つずつ共有しました。
あるべき親子関係への再スタート
私は、今回のケースで「召使い」「暴君」といった、とても強い言葉を使いました。もちろん「強度行動障害」についても説明しました。どの言葉も、一般的な幼児教育の場では敬遠される表現かもしれません。でも、それが本質を伝えるために必要な言葉であれば、私はためらわず使います。
親御さんが熱心に頑張ってこられたことは否定しませんが、現状が全てを物語っているように、残念ながら、関わり方は間違っていたのです。
「この子のために」と思ってしてきた行動が、実は“しもべ”のような関わり方になっていなかったか。今一度、関係性をリセットし、新たな関係へと再構築するために必要な問いかけだと考えています。
親子関係を変えるために必要なのは、小手先のテクニックではありません。大人が現実から目を逸らさず、問題点は反省し、子どもと正面から向き合う姿勢を持つことです。もちろん支援者にも、それを全力で支える覚悟が必要です。
教育相談はこんなにも厳しいのです。
親と支援者の二人三脚で「NO」の練習
A君のその後の変化は、とても早いものでした。



みどり!すみっコがいいの!



(すみっコは戸棚にあるけど)ママのおすすめのピカチュウです♪
このようなやりとりが自然にできるようになるために、教育相談では練習方法と心構えを伝えました。もちろんアドバイスでおしまいということはなく、私も食事場面に同席し、親御さんにお手本を示します。
最初こそ、大きな声を出したA君でしたが、荒れ方のパターンや強さなどを親御さんに解説しながら、粘り強く練習しました。
親が落ち着いて「NO」と言えるようになったことで、A君は次第に「どうにもならないことだってあるよね」という、大切な社会性を獲得しました。これは食事以外の場面でも同様でした。
その後入園した幼稚園では、「落ち着いた良い子です」と言っていただけるようになりました。以前の様子をお伝えしても「信じられない」と言われるほどでした。
子どもにびくびくする毎日からの卒業
親御さんの言葉をお伝えします。



どう考えてもいびつな親子関係でした
- 正直、子どもの遅れも、親子関係の上手くいかなさも、「認めたくない」という気持ちもありました。
- 初回相談で「暴君」と「召使い」と言われたときはグサッときました。でも先生と一緒に動画を見たとき、「本当にその通り」だと思いました。
- 進むべき方向性と具体的な対策をセットで教わることができたので、夫婦で「やってみよう。一緒に頑張ろう」とお互いを励まし合いながら取り組むことができました。
- 今振り返ると、子どもの言いなりでびくびくしていて、親として情けない毎日だったと思います。でも、子どもに怒鳴ったり怒ったりせず、「自然な感じで毅然と接する」ことができるようになりました。これはテクニックばかりではなく、「子育ての基本はこうあるべきだよ」と先生に教えていただいたことを、家族で実践することができたからです。
決して他人事ではありません
今回お伝えしたテーマは、診断の有無を問わず、お子さんが2〜3歳頃から経験しておくべき、とても大切な学びです。
- 幼少期から、子が親を顎で使う
- 親がしもべになってしまっている(それに気づいていない)
教育相談では、絶対にここから目を逸らずに取り組みます。その後の社会適応に大きく影響することが分かっているからです。
「うちのクラスあの子、きっと練習不足のまま、幼稚園(小学校)に入ってきたな…」
多くの幼稚園や小学校で担任の先生がこのように感じていることを、私は知っています。もしA君がそのまま幼稚園に入ったらいったいどうなっていたか、その姿は容易に想像できるかと思います。
「それでも」改善の方法はあります
A君の親御さんがそうだったように、きちんとした練習を繰り返せば、必ず親子関係を良い方向に再構築できます。それを支援することが専門家の仕事です。技術的な話だけではなく、子育てにどのような心構えが必要かも含めて、教育相談ではお伝えしていきます。
こちらの記事も参考になります。


適切な関わり方を知りたい、何から始めれば良いかアドバイスが欲しいという方は、当相談室までお問い合わせください。改善に向けてサポートしますので、一緒に頑張りましょう。