今回の記事は、こちらの続きになります。
👉自閉スペクトラム症や重度知的障害の子が“穏やかに過ごせる”自由時間のつくり方(前編)
一人遊び習慣の前提となる、安心して過ごせる自由時間の作り方は、こちらをご覧ください。
遊びが情緒の安定につながる理由
前編では、自閉スペクトラム症や重度知的障害のお子さんにとって、遊びがなぜ大切なのかをお伝えしました。
特性の強いお子さんやご家族にとって、自由な時間は必ずしも安心できる時間ではありません。
だからこそ、大人が「遊びを教える」「一緒に作る」という視点を持つことが大切なのです。
今回は、その続きとして「遊び」と「情緒の安定」の深い関係を掘り下げます。
これは診断名の有無に関係なく、些細なことでかんしゃくを起こしたり、激しく興奮したりするお子さんへの支援、
そして落ち着いて過ごす力を育てるうえでも役立つ内容です。
些細なきっかけで、激しいかんしゃくを起こす──解決の糸口は?
お子さんが「自閉スペクトラム症(疑い)」と言われているお母さんからの相談です。

ほんの少し思い通りにならないだけで、火が付いたように泣き叫びます。30分も泣き続けることがあって、どうにもできません…。
特性の有無にかかわらず、些細なきっかけで興奮やかんしゃくを起こす子は少なくありません。
特に、環境の変化や予想外の出来事に直面したときに、
激しい泣き・叫び・大暴れとなってしまうケースはよく見られます。
このような興奮・かんしゃくの問題点については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
👉2歳・3歳で言葉が出ない原因は“2人の犯人”──支援現場で分かった意外な落とし穴(後編)
こうした行動の悩みは、ご家庭だけでなく幼稚園や保育園でも大きな課題です。
- 大声で泣き続けるため、保育活動が中断する
- 職員がつきっきりとなり、他の子への対応が手薄になる
- どうしてよいか分からず、その場しのぎでなだめるだけになってしまう



せんせい、こえがうるさい…
他の園児からこんな声が聞かれることもあります。
かんしゃくや興奮は、家庭でも園でも深刻な悩みの種です。
では、この問題を根本から改善するにはどうすればいいのでしょうか。
実は、その突破口が「遊び」──特に一人遊びの習慣なのです。
情緒を安定させるカギは「日常の一人遊び習慣」
激しく興奮してかんしゃくを起こす子どもにどう対応すればよいか?
その答えは──
ふだん機嫌がよい時から、遊び——特に一人遊びに没頭する習慣をつくっておくことです
機嫌が悪くなったときだけおもちゃを渡して気を紛らわせるのは、その場しのぎ。
「ふだんから」「日常の中で」遊びを習慣にしておくことに意味があるのです。
私がご家庭や保育施設で支援するときは、その子の年齢・発達に合わせた過ごし方やグッズを提案します。
たとえば前編で紹介した、こんな遊び・過ごし方です。
- パスタケースに穴を開け、タピオカドリンク用のストローを落とす
- 園芸用のカップを、黙々と積み重ねる
- 子ども銀行のコインを、貯金箱に入れていく
このような、1人で黙々と手を動かし、それに集中・没頭してしまうような遊びが推奨されます。
間違いや失敗なども起こらない、その子の年齢や発達の2段階下くらいが目安です。
もちろん最初は大人が手伝ってもOKですが、少しずつ介助を減らしていきます。
最終的には、そのグッズを見た瞬間、ペタッと座って、周囲も気にせず集中モードに入る──そこを目指します。
こうした「没頭できる遊び」が、かんしゃく予防の土台になります。
遊びの習慣が、興奮を収める力に変わる
このような土台がしっかりできあがっていると、どうなるでしょうか。
今までは、ほんの些細なことで大声を出したりかんしゃくを起こしていた子が──



あれ?かんしゃく起こさない…
そんな変化が見られるようになります。
かんしゃくが起ってしまったとしても、何度も声をかけたり抱きしめたりするのではなく、
あらかじめ用意したグッズの場所まで誘導し、手を動かす遊びに移ります。
すると、黙々と遊びに没頭しているうちに、かんしゃくや興奮は次第におさまり、
再び穏やかに過ごせるようになります。もちろん次の活動への切り替えもスムーズになります。
こうした変化を目の当たりにすると、幼稚園や保育園の先生も驚かれることが多いです。
大切なのは、激しい興奮を力で抑えつけて落ち着かせるのではなく、
最小限の支援で、自分の力で感情を整えられる状態を目指すことです。
これらは決して絵空事ではありません。
正しいやり方で丁寧に取り組めば、どんなお子さんでも実現可能です。
つまり、一人遊びのレパートリーを増やし、それが日常の当たり前の習慣になっていくことで、
イライラや興奮を自分の力で落ち着ける力が育ちます。
そして実は、これこそが——社会に適応していくための大きな分かれ道になるのです。
幼少期から育てたい──社会適応と強度行動障害予防
穏やかでニコニコしている人は、まわりから自然と愛されます。
情緒が安定していれば、日々の生活の中での学習や経験もスムーズに進みます。
一方、些細なことでかんしゃくを起こしたり拒否を繰り返したりするお子さんに対しては、
大人の関わりも厳しいものになります。
知的発達に遅れがある場合、生活習慣を身につけるためには介助や支援が欠かせませんが、
支援をすっと受け入れられる子と、すぐに興奮して荒れてしまう子では、社会適応に大きな差が生まれます。
では、落ち着く力が育たないままだと、どうなるでしょうか。
イライラや不満の矛先は、親や支援者、つまり人に向かいます。
この積み重ねが、やがて強度行動障害のような深刻な困りごとにつながるケースもあります。
強度行動障害を特集したドキュメンタリー番組では──
- 興奮して人に向かっていく
- 腕に掴みかかる
- 物を投げたり叩いたりする
このような場面が映し出されます。
その背景には、幼少期から続いてきた習慣・行動パターンがあります。
「ごく些細なことで激しいかんしゃくを起こす」「すぐに抱っこを求め、大人が応じる」、
これらが年齢が上がっても続くなら、それは強度行動障害の出発点とも言えるでしょう。だからこそ──
幼少期から“自分で気持ちを落ち着ける力”を育てることが、将来の社会適応・困難の予防の両方につながるのです。
発達支援・療育では「予防」の視点が何より大切
きちんとした遊びを日々の習慣にすることは、将来的な他害や物の破壊といった行動の予防につながります。
つまり、遊びの積み重ねは「興奮を自分で落ち着ける力」を育て、困難を未然に防ぐ土台となるのです。
年齢が小さいうちからの積み重ねこそが、何より大切です。
支援の効果が届きやすい幼少期だからこそ、今できることを丁寧に積み重ねていきましょう。
さらに強度行動障害の予防の重要性について知りたい方は、こちらの記事も参考になります。


当相談室では、応用行動分析学(ABA)を専門とする臨床心理士が出張カウンセリングを行っています。
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