「名前を呼んでも振り向かない」2歳・3歳──反応しないのは“性格”ではありません

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名前を呼んでも反応しない子ども──その行動には理由があります

2歳の子どもなんですけど、名前を呼んでもあまり振り向かないんです

テレビやおやつには反応するのに、親の声はスルーされてしまいます

そんなご相談をいただくことがあります。

この「呼んでも振り向かない」という悩みは、親御さんからよく届きます。
何か発達の問題があるのでしょうか──?


今回のテーマは、「名前を呼んでも反応しない」子どもの行動について。

こちらの過去記事でも少し触れている内容ですが、今回はこの行動についてどう考えればよいか、
対応のポイントと併せて、深く掘り下げていきます。

👉 「3歳なのに会話にならない…」──“言葉が出ているのに通じない”ときの支援の考え方

この記事の中で、私はこんなふうに書きました:

親が声をかけたら、即座にパッとふりむいて反応する

こうした練習方法を親御さんにお伝えし、療育の初期段階から重点的に取り組んでいきます。

なぜなら、これは──
発語だけでなく、人とのやりとりの基本となる、『肝心・要(かなめ)の行動』だからです。

実は、この「振り向く」という行動に、子どもの“社会性の土台”がぎゅっと詰まっています。

ところが、支援の現場では軽視されてしまうことも多々あります。
次のパートで一緒に考えていきましょう。


「個性」ではなく「課題」──振り向く力は、社会性の入口です

2歳・3歳で名前を呼んでも振り向かない──
そんな子どもの様子を前に、「それも個性ですよ」と言う支援者が、残念ながら存在します。

でも、はっきり言います。これは“個性”ではありません。

名前を呼ばれたら反応する。
これは、人と関わるうえで大切な行動です。

それに、「せっかくお母さんが声をかけてくれたのにスルーされる」なんて、ちょっと切ないですよね。

家庭も、幼稚園も、学校も、そして社会も──すべて“人と過ごす場所”です。
その中で、呼びかけに反応する力は、やりとりのスタート地点になります。

呼ばれても反応しない状態を放置しておけば、いずれ集団生活に馴染みにくくなるのは明らかです。
これは「その子らしさ」なんかではなく、まだ獲得できていない“スキル”と捉えましょう。

もちろん、スキルであれば練習によって必ず上達します。

「様子を見ましょう」とだけ言って終わる支援者がいたら、それは事実上の“放置”です。
そのまま3歳、4歳と過ぎていってしまえば、より深い困りごとにつながっていく可能性もあります。

課題を“個性”にすり替える前に、やれることはたくさんあります。


呼んでも来ないのに、呼んでないときに寄ってくる理由──“主導権のズレ”に気づくとき

まず何から始めるんですか?名前をたくさん呼ぶとか?

それをやると、ますます来なくなります。まず“主導権”の話をします

主導権?


親が呼んでも反応しない──確かにそう見えるかもしれません。
でも、少し整理してみましょう。

「親が名前を呼ぶ → 来ない」だけじゃなくて、

「親が呼んでないとき → 勝手に来る」

という構図、ありませんか?たとえば──

  • おやつを準備していると、呼んでもいないのに気づいたら足元にいる
  • 夕方、火を使っていて忙しいときに限ってまとわりついてくる
  • トイレに行こうとするとドアの前で待機している

──発達支援ではよく見る「あるある風景」です。

もう少し深く見ると、こうも言えます:

「親が構ってあげられない・手が離せない → 子どもが来る」

親が来て欲しいときに子どもは来ない。
親は呼んでいないし、むしろ来て欲しくないときに限って子どもがやって来る。

この“ねじれ”こそが、親子の主導権のズレを物語っています。

このような「いびつな親子関係」が続いていれば、
「どう声をかければいいのか」「どんなタイミングで言えばいいのか」
わからなくなってくるのも当然です。

だから支援ではまず、このズレに目を向けるところから始めます。

……これ、心当たりありませんか?

もう、心当たりしかありません


“呼んでも来ない”を変えるには──親が先に主導権を取り戻す練習

呼んで振り向いてほしいのに、振り向かない。
呼んでもいないし、むしろ親が忙しいときに限って来る。

そんな状況を、「いびつな親子関係」と表現しました。

いびつになっているのなら、本来の形に戻せば良いだけです。
子どもが持っていた主導権を、親御さん側に取り戻すということです。


出張カウンセリングで家庭を訪問すれば、
お子さんがどのように主導権を握っているか、すぐに分かります。

それが分かれば、教育相談の初回から大人側に主導権を戻す練習を開始します。
すなわち──

大人同士で大事な話をしているときは、あなたのお相手はできません♡

お父さんやお母さんにまとわりつかず、あちらで1人で遊んでいてね♪

こちらのタイミングで呼びますので、しばしお待ちください☆

これを、まさに家庭の中、リビングで行います。
子どもに言葉で説得したり言い聞かせたりせず、親子で体験として学んでもらいます。

具体的な方法については、こちらの記事でも紹介しています:
👉 “1人で遊べる子”は伸びる──早期療育で最初に身につける力とは

これが練習ですか?でもそんなことしたら…

はい、もちろん最初は泣いたり怒ったりします


でも、大人は決して怒りません。

子どもがちょっかいを出してきても、親はコンクリートのように固まって、ピクリとも反応しない。
そして大人同士の会話を淡々と続けます。

もちろん親御さんは内心ハラハラですが、支援者がそこをリードします。

そして、子どもがようやくあきらめて1人で遊び始めたところで──

おいで!

と、大人が満面の笑みで声をかけます。すると──

あれだけ呼んでも来なかった子が、嘘のように、まっすぐ飛んでくる。
「信じられない…」という表情の親御さん。

支援者の私は、にこにこしながら──

私にとっては“いつものこと”なんですけどね…

そんなふうに思っています。

あれだけ名前を呼んでも来なかったのに、離れることを教えたら来るようになる。
不思議に思われるかもしれませんが、これが「臨床あるある」なんです。


呼ばれたら笑顔で振り向く──“あたりまえ”をつくる子育てへ

「親に呼ばれたら、100%反応する」
教育相談の中だけで終わらせず、生活の中でも“あたりまえ”になるようにしていきます。

そのためのキーワードは、ここまで何度か登場している「主導権」です。

子育てや保育、幼児教育の現場で「大人が主導権を持ちましょう」と言うと、
あまり受けが良ろしくありません。

でも、「名前を呼ばれたら反応する」という、ごく基本的な行動ひとつをとっても、
親御さんが主導権をしっかり握っていないと、子育てはどんどん難しくなっていきます。

道を歩くとき、お店に入ったとき、電車に乗ったとき。
親が指示を出しても、子どもが反応しない状態では、そもそも安全に過ごすことさえ難しくなります。

「呼んでも振り向かない」という悩みの裏には、
そんな“親子の土台”にあるズレが隠れていることが多いのです。

私の教育相談では、目の前の困りごとを解決するだけでなく、
「子育てをどう考えていくか」という土台や価値観そのものにもアプローチしていきます。

呼んでも振り向かない──
その小さな行動の中に、親子の関係がそのまま映し出されているのです。

「主導権を取り戻す」というのは、
子どもを叱って従わせることではありません。

むしろ逆です。
子どもが、安心して親の声を頼りにできる関係を育てていくということ。

呼ばれたら笑顔で振り向く。
そんな“あたりまえ”を一緒に育てていきましょう。


発達・行動に関する支援を受けたいと思っても、「様子を見ましょう」と言われてしまうことは多くあります。
その問題点については、こちらの記事でも紹介しています。

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  • エリア: 千葉県・東京都を中心に出張対応
  • 支援方法: 応用行動分析学(ABA)に基づいた支援プランを個別にご提案
  • サポート内容: ご家庭での療育支援、親御さんへの具体的アドバイス

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