幼稚園に入る前に“断られる練習”を!──思い通りにならない経験が親子を強くする理由

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今回は、幼稚園に入る前の“本当に大切な準備”の話です。

お着替え? お箸? トイレトレーニング?──
それも大事ですが、幼稚園の入園準備として大切なのは、「思い通りにならない」経験を積むこと。

「なんでそんなことするの?」と思われた方も、どうか続きを読んでみてください。
これは、親子にとって一見厳しく、でも“いちばんやさしい集団生活の準備”なのです。

目次

幼稚園入園準備──本当に必要なのは「思い通りにならない経験」

ご家庭で行う支援は「個別」ではありますが、もちろん「幼稚園の入園」や「集団生活」を見据えた練習も行います。

制服を着るとか、お箸とか、トイレトレーニングですか?

そんなご質問を受けることがあります。

もちろん、生活面の練習も大切です。
でも、それよりもっと重視している準備があります。それが──

子どもが「NO」と言われる経験。
=“思い通りにならない”ことを受け入れる練習。

これです。

「えっ、わざと断るんですか?」「そんなのかわいそうじゃない?」と驚かれるかもしれません。
でもこれは、いずれ必ずぶつかる壁。

だからこそ、子どもだけでなく親御さんにも一緒に乗り越えてもらいたい試練なのです。

実は、過去の記事でも少しご紹介しました:

👉「ふりかけがないと食べない」からの脱却──“偏食”ではなかったA君と親の再スタート
👉2歳児がママにべったりで離れないときに。「親から離れる練習」のはじめ方

たとえば、こんなことを支援では実践しています:

  • 親と支援者が連携して「NO」を伝える
  • 子どもが少し不満に感じる状況を“あえて”つくる

もちろん、これは“いじわる”でやるのではありません。
では、なぜこの練習が必要なのか──その理由を、次のパートでお話しします。


幼稚園は“異文化”──入園後すぐに適応できる子とできない子の差

実際のイメージが浮かぶように、お話します。

これまで、親御さんと家庭中心で過ごしてきた子どもにとって──
幼稚園は、まるで異世界に来たかのような体験になることがあります。

そもそも、お母さんがいないことにくわえて──

  • なんで建物の中で靴を履かなきゃいけないの?
  • ここは冷蔵庫がないの? ジュースは?
  • まだ遊びたかったのに、なんでお部屋に戻らなきゃいけないの?
  • この給食、うちの味付けと全然違う…

もう、わからないことばかり。
初めての集団生活に戸惑うのは、ある意味あたりまえです。

でも、ここで少し立ち止まって考えてみてください。

最初はカルチャーショックを受けても、すぐに環境に慣れていく子もいます。
その一方で──

  • 外遊びで帽子を被るように促されただけで泣いてしまう
  • 手を洗うとき、自分が一番じゃないと怒る

そんな、ほんの些細な“ズレ”や“違い”に強く反応し、
かんしゃくを起こしたり、大声を出したりする。
入園してしばらく経っても、その様子が続いてしまう。

そんなお子さんも、必ず一定数いるのです。

この違いは、いったい何なのでしょうか?
「環境が変わったからしかたない」とだけでは、説明がつかないことが多いのです。


「いつものルーティン」が落とし穴に──幼稚園でかんしゃくが増える子の特徴

では、幼稚園入園前の半年〜1年前まで、少し時間を巻き戻してみましょう。
出張カウンセリングで、実際にこんな場面に遭遇することがあります。

どうしてお子さん、泣いているんですか?

いつものバニラ味じゃなくて、ココア味のクッキーを出してしまったので…



「えっ?たかがそんなことで?」と思う方もいるかもしれません。
でも実は、これで大爆発するお子さんって、本当にいるんです。

他にも──

  • 車でお出かけするとき、一曲目はこれじゃないとダメ!
  • お風呂上がりの牛乳は、必ずこのコップじゃないとイヤ!
  • パパのお椅子はこっちで、ぼくの隣はママなの!

親御さんにとっては、どれも気にも留めていない「毎日のルーティン」。
ところが、子どもにとっては“絶対に譲れないルール”になっていたりします。

すると何年も支援の現場にいる私には──
1年後、幼稚園で大荒れしているお子さんの姿が、ありありと目に浮かぶんです。

つまり何が言いたいか。

入園して環境が変わったから、急にかんしゃくが起こるようになったわけではありません。
幼稚園でかんしゃくが続く子は、実はもっと前からその兆しがあるのです。


幼稚園入園前にできる「思い通りにならない練習」実践メニュー

幼稚園では、家庭とまったく同じように過ごすことはできません。
それは、支援者として最初から分かっていることです。

だからこそ、入園前から準備することができます。
そして、実際の教育相談では、こんな「練習メニュー」を組み込みます。

次の教育相談では──

やっほー、こっちで一緒にクッキー食べようか♪

!?


この日は、いつも子どもが座る位置に、あえて私が座ります。
そして出されたクッキーは、いつものバニラではなく、ココア味。

当然、子どもは怒ります。

でも──
私も親御さんも、子どもを怒ったり、なだめたり、説得したりはしません。

子どもが怒ることは、あらかじめ予測できていましたし、
それまでの教育相談の中で、子どもの我の強さや反応のパターンも、よく分かっています。

良いタイミングを見て、私はもう一度声をかけます。

どう?食べる?

……食べる

ズコッ💦食べるの!?



こんなふうに、あえて子どもが不満を感じる状況を演出する。
これが、「思い通りにならない練習」の基本です。

“あえて”ということは、不機嫌になる可能性が高いという前提で臨んでいます。
だからこそ、親御さんも心の準備ができた状態で見守ることができます。

すると──

  • うちの子、こんな些細なことでキレてたんだ…
  • このまま幼稚園に入ったら、大変なことになるかも…

と、冷静に観察し、見通しと危機感を持つことができるようになるのです。


“折れる練習”が親子を強くし、集団生活を乗り越える力になる

最初は「こんなことして大丈夫?」と戸惑っていた親御さんも、
回を重ねるうちに「これは必要な練習だ」と気づいてくださいます。

すると──

食事の時、座る場所は私の気分で変えるようにしました

お風呂上がりの牛乳は、ガラスのコップで出しました


こんな報告が、保護者の口から自然と出てくるようになります。
これはまさに、子育てがレベルアップした証拠です。

一方で子どもにとっては──

人生、思い通りにならないこともあるんだなぁ…

という経験の積み重ねになります。
折れる・受け入れる・諦める──幼稚園の集団生活に適応する上で必ず出会う体験です。

些細なことでキレても、しかたないです。
幼稚園に入ったら、そんな場面は毎日のように訪れるのだから、今から少しずつ練習しておきましょう。

もちろん、最初は「子どもに悪いことをしているのでは…」と考えてしまう親御さんもいます。
でも私は、こうお伝えしています。

いいえ、むしろこちらの方が、よっぽど丁寧な子育てです


まとめ──幼稚園入園準備で本当に大切なこと

今回ご紹介したような“思い通りにならない練習”を必要とするご家庭は、実際にはたくさんあります。
ところが残念なことに、多くの支援者は、これとは真逆のことを伝えてしまいます。

実際、先ほどご紹介した記事の中でも──

要求をすべて叶えてあげて

といった言葉を平気で口にする“専門家”がいます。

でも、親御さんにとって耳障りのいい言葉を並べることが、専門家の仕事ではありません。
幼稚園入園や集団生活の準備として、一見厳しいとも思える助言も必要なのです。

“思い通りにならない経験”こそが、子どもを強く、親を頼もしくします。

詳しくは、ぜひこちらの記事もご覧ください。

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