あえてうるさくする療育──「静かな環境で」が通用しない理由と家庭でできる練習

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幼稚園で「保育に乗れない」子どもに何が起きているか

私の療育相談室には、1〜2歳の頃に言葉の遅れやかんしゃくで相談にいらっしゃる方が多くいます。

そんなお子さんがもう少し大きくなって幼稚園に入る頃、どういう支援をしているか──
今回はその話をしたいと思います。

少しイメージしてみてください。

自宅で子どもが机に向かって何か作業をしている。テレビから音は聞こえるし、親は台所で料理しているのに、本人は黙々とそれに没頭している。

私が行う療育支援では、

「スイッチを押せば集中モードに入る」

就学前までに、このような状態になって小学校入学を迎えてほしいと考えています。

次のパートから詳しくお話しします。


家庭でできる集中の練習──まず「課題」を用意する

幼稚園の先生からこのような相談を受けます──

あるお子さんが、教室の後ろでゴロゴロし始めます。

特に知的な遅れや自閉スペクトラムの特性があるお子さんの場合、いわゆる「保育についていけない」ということが起こりがちです。

本人にとってその活動が難しいわけですから、支援や工夫が必要な場面であることは間違いありません。

ところが、子どもの口から「配慮してほしい」という言葉が出ることはありません。そもそもゴロゴロしている本人は、“困っている”わけでもないのです。

この教室でゴロゴロするが当たり前になってしまうと、何かに集中する・没頭するという機会が、知らないうちに失われていきます。

私が危惧するのはここです。

教室の中で先生や友達と一緒に一つのことに集中して取り組むというのは良い経験です。

一方、みんなの輪から離れて別なことをするのが幼少期から当たり前になっていくのは、学齢期を見据えても決してポジティブではありません。


課題は簡単すぎるくらいでちょうどいい

幼稚園での配慮や支援はもちろん必要です。一方、出張支援では親御さんからこんな質問をいただくことも多々あります。

家庭でできることはありませんか?

もちろんあります!


というわけで、年少さんくらいのお子さんが実際に取り組んでいる作業を一部紹介します。

同じ色を合わせます!

コップを重ねます!

ストローを重ねます!


このように、言葉を介さずにできる課題、間違いが起こりにくい課題などがファーストチョイスです(あとなるべく安価で)。

一方、大人の丸付けが必要だったり、高価であったりなど、手間やコストが必要なものは避けたいです。

なるほど。ただ…。

どうしましたか?

ちょっと簡単というか、幼いというか…。


ふむふむ。おっしゃることは分かります。実際、この練習を開始するとき「ちょっと簡単過ぎるのでは…」という声はよくあります。

でも、これで良いんです。


次は「邪魔」を入れる──あえてうるさくする理由

1つ1つはシンプルで簡単そうに見えるかもしれません。もちろんあえてそのような課題を用意します。具体的には──

発達年齢よりもさらに下の作業を用意しましょう。

このように親御さんに共有して準備します。

大人が「年齢相応くらい」と思っても準備しても、子どもにとっては案外歯ごたえのある難しい作業かもしれません。

取り組んでいる最中に手が止まるような課題はもうNGです。それでは没頭ではなく、ボーっとする練習になってしまうからです。

また、1つだけでは10秒くらいで終わる課題でも、それをいくつか組み合わせてやらせると、たちまち集中が切れてしまうことも多々あります。

親御さんは、我が子の力を見誤ります。正確に言えば、「過大評価」することが多いです。

誤解を恐れず言えば…

私は、子どもの能力を低く見積もります。

絶対に失敗をさせず、成功体験を積み重ねさせたい── こんなときは、むしろ簡単すぎるくらいでちょうどいいのです。

このようにして、その子の発達や運動などを考慮しながら、ご家庭に合わせた練習方法を提案します。


⑤「ありがと(黙々…)」──練習を積んだ子の実際

どれくらいの量をやるか、どれくらいの時間やるかなどは個々のケースによって様々です。

しかし、ただ長い時間やらせれば良いというわけではありません。実は、一見「いじわる?」とも思われるようなことをする場合があります。

本人が机に向かって黙々と課題に取り組んでいる最中──

お母さん、食事の指導の件なんですが…

えっ…(今その話するの?)


このように、子どもが集中して課題をやっているのに、あえてお母さんとおしゃべりを始めます。

親御さんからすれば「意味が分からない」と思われるかもしれません。でも私からすると──

むしろこれが「普通」です。

と、お伝えします。

小学校の様子を思い浮かべると、イメージしやすいです。

たとえば、授業中に校庭の方から声が聞こえてくることがあります。他の子が先生に質問をするために席に立つこともあります。

つまり、子どもが過ごす日常の中に、静かな環境なんて、実はほとんどないのです。

集中するとか没頭するといった練習の中で、気が散るようなことを、わざと取り入れるのはそのためです。

ちょっとしたことですぐに気もそぞろになったり、イライラしたりするようでは、集団の活動に安定して参加するのは難しいです。

なので、普段の練習のときから大人が──

  • ブツブツ言いながら子どもの近くを歩く
  • 台所で夕飯の準備をする
  • 小さな音で国会中継を流す

このようなことをあえてするのです。

では、こういった練習を積んできた子は、実際どうなるのでしょうか。


これは就労まで続く、長い練習の第一歩

たとえば、子どもが大好きなポテチの袋を持ってウロウロ歩きながら…

終わったらポテチを(ブツブツ…)

ありがと(黙々…)

こんなふうに、幼少期から没頭モードにスッと入る訓練をしてきた子であれば、一言つぶやくだけで集中を維持できます。


「発達障害の特性があって注意が逸れる」
「知的な遅れがあるから集中が難しい」

現場でこんな声を聞くことがあります。

しかし、幼少期からの練習を地道に重ねると、小学校入学後、集中力のある子に育つという手応えがあります。

実際、療育手帳の判定が重度とかなり重たいお子さんでも、夕方、親が台所に長くいる時間、30分近く黙々と1人で作業に没頭するようになります。

実はこの練習、学齢期だけが目標ではありません。その先の就労まで見据えた、長い長い練習の第一歩なのです。


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