自閉スペクトラム症と診断された親御さんへ──支援の現場から伝えたいこと

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病院で「自閉スペクトラム症」と告げられた。
でも、一体何から始めれば良いのか分からず、頭の中は混乱したまま──。

この記事は、そんな診断直後の不安や疑問を抱えている親御さんに向けて、
臨床経験にもとづく支援の始め方や、診断後の子育ての現実。希望をお伝えします。


目次

自閉スペクトラム症と告げられて──病院受診後の親御さんの混乱

小児科で「自閉スペクトラム症の疑いがあります」と言われました。
正直、頭が真っ白になってしまって……。
こういうとき、まず何を考えたらいいのでしょうか。

もともと我が子の発達や行動に不安を感じていた方、
保育園の先生や保健師さんに受診を勧められた方──

いきさつはさまざまでも、意を決して病院を訪れた結果、
「自閉スペクトラム症」あるいはその疑い、と告げられる。

その瞬間、頭が真っ白になり、先生の話もまったく入ってこない。
「何か質問はありますか?」と聞かれた気もするけれど、

とにかく動揺して、何を聞けばいいか、分かりませんでした…

でも、これはむしろ自然な反応です。

病院からの帰り道には、
「障害があるということ?」
「“疑い”ってどういう意味?」
「私の子育てが悪かったの?」
「療育って、どこかに通うことなの?」
と、さまざまな疑問や不安が押し寄せてきます。

焦ってネットで調べても、情報は断片的で、かえって分からなくなる。

実際、私が支援してきた親御さんの中にも、
この“モヤモヤとした霧の中”から相談をスタートされた方がたくさんいます。


自閉症?発達障害?診断名のモヤモヤ──初回相談から変化を見せる

10年以上この仕事を続けていると、医師の言葉や診断名が、
親御さんの心に重くのしかかることを、私はよく分かっています。

そんな強いショックを受けた親御さんに初めてお会いするとき、
支援者として私が意識していることはひとつ。

その日、その場で、変化の兆しを見せること。

これに尽きます。

もちろん、これまでの生育歴や相談歴も詳しく伺います
でも、「初回は聞き取りだけ、支援は次回から」──そんなことはしません。

初めてお会いしたその日、親御さんの目の前で介入を始めます。
お手本をみせ、親御さんにも参加してもらいながら、その中で──

「あれ、うちの子、こんなことできるんだ…」
「言われた通りにやってみたら、できちゃった…」

このように、親御さんに手応えを感じてもらいたいのです。

初回相談は、そこに全てを賭けています。
説明を尽くしてからではなく、“まずは変化”。
これが私の支援の出発点です。


我が子の発達に悩む親御さんへの支援のあり方──「結果が先、信頼は後」

親御さんにとって、我が子の発達・行動の悩みほど、重たいテーマはありません。

初めて違和感を覚えた日から今日に至るまで、
どこを調べても誰に相談しても、進むべき方向が見えず──
まるで、靄(もや)のかかった海をさまよっているような感覚を抱えてきた方も少なくありません。

では、そんな状況の中で、支援者がまず何をするべきか。
丁寧に話を聞く、説明する──それだけでは、十分とは言えません。

大切なのは、変化を“その場で”見せること。
つまり、進むべき方向を照らす“灯台の光”を、親御さんに示すことです。

あそこに灯りが見えます。船を、そちらへ進めてみましょう。

と伝え、親御さんの手で舵を切ってもらうことが、最大の目標です。

10年以上この仕事を続けてきて、この方法が最も効果的だと感じています。

「話は伺いました。では支援は次回から(1か月後)…」

もし、そう伝えたとしたら──
その1か月のあいだ、親御さんの船はさまよい続けたままになってしまいます。

さらに、診断を受けた直後の親御さんの中には、
「自分は親として失格なのではないか」と感じている方もいます。

その思いに対して、
「そんなことありませんよ」と言葉で伝えるだけでは、どうしても届きにくい。

だからこそ、初回相談の場で「できました!」という体験が必要なんです。

「これが、次回お会いするまでの宿題です」

「うまくできなくても構いません。やってみますか?」

こうして、親御さんを五里霧中の海から突破させる。
その結果、1人の支援者として信頼してもらえる。

これが、管制官としての役割です。


診断はやっぱり、頭の片隅から離れない

初回相談で進むべき方向性を示し、粘り強く支援を続けていけば、
子どもの成長を実感できる場面は少しずつ増えていきます。
親子で笑顔になれる時間も、確かに増えます。

これは支援者として自信を持って言えることです。

ただし──
「診断名に、もう全くとらわれていません」という未来が訪れるかというと、
私はそうは思いません。

むしろ、誰よりも熱心に支援に取り組み、日々を懸命に過ごしている親御さんほど、
ふとした瞬間に、「やっぱり知的な遅れ・特性はあるんだな」と感じる場面に出会います。

実際の親御さんの声を紹介します。

私は今でも、いつか息子が劇的に成長するのではないか…という希望が頭の片隅から消えることはありません。
👉早期発達支援のあるべき姿──2歳3か月で相談されたお母さんの声

当時はまだ、息子は大丈夫だろうかと診断名等に囚われていましたが、今も全く気にならないわけではありません。
👉“様子見でいいのか”と考え続けた日々──1歳8ヵ月で相談されたお母さんの声

たとえ、言葉が出なかった子が話せるようになり、
かんしゃくが落ち着き、外出もできるようになったとしても──

日々の子育ての中で、「難しいな」と感じたり、
他の子と比べて不安になったりする瞬間は、どうしても訪れます。

そしてそのとき、静かに頭をよぎるのが、
あの日の診断”なのです。


でも、初めて診断されたあの日とは違う──

診断名は頭の片隅から離れることはありません。
それでも、支援を通じて我が子の成長を見てきた親御さんは、決して悲観しません。

なぜなら──

  • 困ったことがあっても、相談できる場所がある
  • そこで1つずつ解決していけばよい
  • 子育てをしている限り、それはきっと続いていく

初めて診断を受けて途方に暮れていた頃とは違い、
今は経験値も、将来を見通す力も備わっているからです。

私の出張カウンセリングでは、幼少期から支援を頑張ってこられたご家庭については、
学齢期以降も定期的にご相談をお受けしています。

お子さんが学齢期や思春期になると、幼少期とはまた違う課題に向き合うことになります。
いわゆる反抗期の時期には、親子の関係が険しくなる“暗黒時代”が訪れる場合もあります。

それでも、サポートは続きます。


今回は、診断を受けて悩んでいる親御さんに向けて書きました。
もちろん、細かなストーリーや歩んできた道のりは、ご家庭によって十人十色です。

それでも、支援の現場で得た「リアル」な見通しは、ぜひお伝えしたいと思いました。

私のホームページでは、実際に出張カウンセリングを受けられた方の声をご紹介しています。
執筆をお願いする際には、

同じように悩みを抱えている保護者に向けて書いてください

と、お願いしました。加筆も修正も一切していません。

実際に同じような悩みを経験された方の声は、きっとあなたの参考になるはずです。
ぜひこちらからお読みください。

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