「問題行動は無視してください」なんて無理です──子育てを困難にする“教科書支援”の落とし穴

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「問題行動は無視してください」が、子育てを困難にする理由

他害、物を壊す、激しいかんしゃく、強すぎるこだわり…。

いわゆる「問題行動」と呼ばれるお子さんの行動に悩む親御さんから、
これまで多く相談をお受けしてきました。

実は、初回の相談でこれまでの経緯を伺うと、
中途半端なアドバイスによって親御さんが混乱している、あるいはお子さんの行動が悪化している──

このようなケースに多く遭遇します。

これまで相談された先で、どのようなアドバイスがありましたか?

「問題となる行動は無視してください」と言われました


無視…ですか…。

私はこの10年間、親御さんにも幼稚園の先生にも、
「子どもの行動を無視してください」と助言したことは、ただの一度もありません。

なぜなら、このような助言が、

  • そもそも親御さんにとって心情的にも技術的にも無理がある点
  • そして逆に、状況を悪化させてしまう点

これらの事実を、現場の経験上、よく分かっているからです。

今回の記事では、

  • なぜ親は子どもの行動を無視することができないのか
  • そもそも、どうして支援者がそんなアドバイスをしてしまうのか

その問題点を解説していきます。


経験不足な支援者が“無視”を勧めてしまう教科書的なカラクリ

今回の問題、実は私の中では「療育あるある」の1つなんです。

「子どもの(問題)行動を無視してください」と言う支援者は、
十中八九「ABA(応用行動分析学)」に関する本などを読んでいます。

その本の中には、おおよそこんな説明が書かれています。

  • 子どもの(問題)行動は、大人の注目や関わりによって「強化」されている
  • だから、問題行動を無視しなければならない
  • すると、それまで強化されていた問題行動は減少していく

本の中では、これらが「消去」という専門用語で説明されています。
支援者はその原理を元にアドバイスしているはずです。

つまり、問題行動を強化している原因(親の注目や関わりなど)を取り除きさえすれば、
問題行動は減っていくはずである、という考え方です。

確かに、これは「教科書的に」間違っているわけではありません。
大学生が授業で学ぶレベルの話であれば、「その通りですね」と言えます。

ところが、リアルの現場でこんな考えを持ち出したら、
支援が上手くいかないどころか、かえって大惨事になりかねません。

大惨事なんて大げさに聞こえるかもしれませんが、
もちろん、誇張でもなんでもありません。

本や講座で聞きかじった内容をそのまま伝えるだけ。
これがいかに罪作りであるか、その理由を詳しく説明していきますね。

「現場のリアルを見ずに進む支援が招く危険性」については、こちらの記事が参考になります。
👉“支援室ではいい子”なのに“家ではつらい”──その違和感、正しいです


“無視”が成立しない現実──例:夕方のワンオペ育児

では、こんな場面を想像してください。

夕方、特にお母さんが忙しくなる時間になると、
「ねぇ!ねぇ!」としつこくまとわりつく子がいたとします。

少し構って落ち着いたと思ったら、
またすぐに「ねぇ!ねぇ!」が始まる。

お母さんが「ちょっとあっちで遊んでいて」と言ったら、
「キー!」と怒り始める。

このように、夕方のワンオペで困っている親御さんは少なくありません。

では、支援者からの「無視してください」というアドバイスを親御さんが実行したら、
どんなことが起こるかというと──

ねぇ!

……。

ねぇねぇ!

……。

キーーーーーーーーー!!!!

……。(イライラ)

バカバカバカ!!!(と、体当たり)

うるさい!!!痛いでしょ!!!


十中八九、こうなります。

それまで強化されてきた行動を消去しようとすると、
ほぼ確実に行動のエスカレートが起こります。

親御さんからすれば、良くなるどころか、
ますます悪化しているようにしか見えません。

これを『(消去)バースト』といいます。

消去の手続きを行うと、行動が少なくなるどころか、
逆に、一時的に行動がグーンと増え、時にパワーアップまでする現象です。

こんなことが高確率で起こってしまうわけですから、
支援を行う際には、このバーストに細心の注意が必要です。

そもそも、これまで以上にしつこく繰り返し、パワーアップまでするわけですから──

普通の親御さんではまず耐えられない

そう考える方が、支援者としては賢明です。

ところが、教科書をかじっただけの支援者は、
現場で起こるバーストの実際の恐ろしさを知らないし、甘く見ています。

支援現場でバーストが起こる場合の対応については、こちらの記事で具体例を紹介しています。
👉2歳・3歳で言葉が出ない原因は“2人の犯人”──支援現場で分かった意外な落とし穴(後編)


問題行動がさらに増える──“消去バースト”の本当の恐ろしさ

さらに、消去バーストの本当の恐ろしさは、
単なるエスカレートやパワーアップにとどまりません。

なんと、これまでとは全く違う、より強力な「新技」を生み出してしまうこともあります。

たとえば先ほどのような夕方ワンオペ場面で──

  • 「嫌いにならないで!いい子になるから!」(泣き落とし?)
  • 「ママのブス!ブス!!」(どこでそんな暴言を?)
  • わき腹あたりを人差し指で強くツンツン!と突いてくる(北斗の拳?)

お母さん、これに耐えられますか?無視できますか?

もう絶対無理ですね


はい、その通り。無理です。

親御さんに消去バーストに耐えさせるなんて「無理」と、最初から考えるべきです。

子どもからしつこく「ねぇ!ねぇ!」とまとわりつかれると、
普通の親御さんであれば、眉間にしわが寄ったり頬が引きつったりします。

指でツンと突っつかれたり、服を引っ張られたりすれば、
反射的に体がピクッと反応し、つい子どもの手を振り払おうとしてしまいます。

親御さんは反応していないと思い込んでいるかもしれませんが、
実は、立派に反応しているのです。

つまり、無視できていません。消去になっていないのです。

何度でも繰り返します。

子どもが繰り出すあの手この手の前に、大抵の親は無視などできません。


無視なんて無理──じゃあ何をすればいいのか?(次回、解決編)

正直に言えば、相当の熟練者でない限り、
支援者だって「無視」はできません。

先程のような場面において、たとえ子どもがどんな技を繰り出してきても、
それらに一切ピクリとも反応せず、黙々と淡々と料理を続ける。

これができるようになるためには、相当の訓練が必要です。

もし子どもの行動上の問題に対して「無視してください」などと言う支援者がいたら…

じゃあ、お手本を見せてください

と、言ってみると良いです。
それこそ無視されるか、あるいはお茶を濁してくるでしょう。

軽々しく「無視」なんて言葉を使う支援者がいたら、
現場での支援経験が乏しい方と考えてほぼ間違いありません。


では、問題行動をどうすればよいのか?

私がクライアントに推奨しているのは、“無視”とはまったく真逆の発想です。

キーワードは、「健康的」、「ポジティブ」、「没頭」などなど、
無視どころか、子どもを大いに褒ることができるような習慣を作っていくことが、解決の鍵です。

次回記事では、その基本的な考え方をお伝えします。
👉(12月9日アップ予定)


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  • 対象年齢: ご相談時点で3歳未満のお子さま
  • エリア: 千葉県・東京都を中心に出張対応
  • 支援方法: 応用行動分析学(ABA)に基づいた支援プランを個別にご提案
  • サポート内容: ご家庭での療育支援、親御さんへの具体的アドバイス

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