「静かで手がかからない良い子」だったはずなのに──いつの間にか「一番難しい」ケースに?
私の療育相談には、「言葉が出ない」「かんしゃくが激しい」といった、
切実な悩みが数多く寄せられます。
しかし、実際の支援現場で出会う親御さんの悩みは、実に多種多様です。
たとえば──
子どもが、ずっと畳をガリガリしているんです……
このような、ちょっと変わった相談をお受けすることもあります。
詳しくお話を伺うと、その背景が見えてきました。
- 小さい頃からおとなしく、手のかからない子だった
- 和室のある家に引っ越ししてから、爪で畳をひっかく癖が始まった
- おもちゃやテレビには一切興味を示さなくなり、何時間でもガリガリと続けてしまう
放っておけば、半日でも一日でも静かに没頭し続けてしまう。
一見「手がかからない」ように見えますが、親御さんからすれば──
「手がかからない」とかそういう問題ではない…
と、その静けさが、かえって深い不安に変わり、
私の相談室に支援を求めに来られたという経緯でした。
僕、畳さえあれば大丈夫──動かない子は、激しい子より支援が難しい
畳のある和室が定位置となり、ずっと畳をガリガリと引っかいている。
親が声をかけてもどこ吹く風で、やめさせようとすると怒り始める。
このようなケースの支援は、実はかなり難しいです。
なぜなら、「自己刺激(自分一人で完結する心地よさ)」さえあれば大満足なので、
1日の中の多くが、“人を必要としない”時間になってしまいます。
当然、コミュニケーションを学ぶ機会が少なくなります。
また、親にだって用事や都合がありますから、
子どもを1日中同じことに没頭させ続けることなんてできません。
すると、子どもにとって親は──
「自分の好きなことをやめさせようとする存在」
となってしまいます。
その結果、親が子どもに関わろうとすると激しく抵抗するようになりますし、
親も子どもに対してびくびくするようになります。
こうした悪循環が、支援を難しくさせる理由です。
ただ、10年も現場での支援を続けていると──
なかなかやりがいのあるケースがきたな…
と思ってしまうのも、また事実なのですが。
さて、親御さんには──
- 畳だけで大満足というのは、正直さみしいこと
- 人を遠ざけ、大人が関わると怒りだす現状は改善が必要
- 畳以外にも楽しいことがたくさんあると体験していこう
と、お伝えしました。
親御さんは、このままでは我が子が──
世捨て人になってしまうのではないか…
と、強い不安を感じていました。
もちろん、支援者としてそうはさせません。
かくして、親御さんと支援者による「世の楽しさを一緒に探そう大作戦」が始まるわけです。
強いこだわりをどうやって改善させたか──突破口は紙やすり!?
特定の対象に対する「こだわり」が強いお子さんに対し、
興味・関心の幅を広げていくアプローチは、基本的に──
根気(根性)勝負となります。
今回のケースでも、ありとあらゆるグッズを「ダメ元」で試し続けました。
毛布などのフワフワ系、スライムのようなグニャグニャ系、緩衝材のプチプチ、
回転するおもちゃに、キラキラ光るアイテム……。結果は、見事に全滅でした。
ですが、ここでへこたれてはいけません。
もとより長期戦は覚悟の上です。
なんであんなに畳をガリガリするんだろう。猫じゃあるまいし……
…猫?
そこで閃きました。
お父さんの趣味が模型作りだったので、工具箱の中に「あるもの」があったのです。
目が粗いものから細かいものまで揃っている、”あれ”です。
いくつかピックアップして、お子さんの手にそっと触れさせてみたところ──
!!!???
ついに見つかりました。それは──
紙やすり (サンドペーパー)
でした。
しかも、表面がガサガサすぎる「粗目」はあまり好きではないようで、
どうやら「中目の200番台」がお気に入り。
あれだけ畳に執着し、誰が声をかけても無視していた子が──
はい、どうぞ
と紙やすり(200番)を見せると、畳から離れて歩き出し、
おもむろにこちらへ近づいてくるようになったのです。
“謎のこだわり?”への支援については、こちらの記事でも紹介しています。
📒「CMが怖い」って本気で?──3歳の“謎のこだわり”と向き合う支援とは
こだわりが強くても「この子のペース」で大丈夫?──そんなわけありません
もちろん「紙やすり」を渡して「はい、おしまい」というわけではありません。
ここで、親御さんの心情に焦点を当てて考えてみましょう。
お母さんが声をかけても、我が子は背を向けたまま。
遊びに誘っても、畳をガリガリするばかりで反応すらしてくれない。
これは、親にとって耐えがたく辛い日々です。
何を試しても、どう頑張ってもうまくいかない。
こんな状態が続くと──
この子に何をしても無駄なんだ……
という気持ちになってしまいます。
我が子に働きかけるエネルギーさえ奪われてしまいます。
このような状態を心理学で「学習性無力感」と言います。
実は、このお母さんはあちこちの支援機関で相談を重ねていました。
でも、どこへ行っても──
「そんなに好きなんだから、この子のペースで……」
と言われ続けたそうです。
それは、お母さんからすれば──
と言われているも同然でした。
つまり、「どこに相談しても無駄なんだ」という、
支援(者)に対する無力感すら生まれてしまっていたのです。
誰にもわかってもらえない絶望感から、つい感情的になってしまったこともあったそうです。
支援者に相談しても「様子を見ましょう」と言わてしまう…。
その問題点について、こちらの記事でも紹介しています。
📒専門家の「様子見でいいですよ」は本当?──支援が遅れる前に知っておきたいこと
保護者の「どうせうまくいかない」を、支援者が動かすためには
今回の記事でお伝えしたいのは、
「お気に入りグッズ見つかって良かった」という単純な話ではありません。
- 子どもの興味関心が広がった
- 親の働きかけにようやく反応してくれた
- 物を介して「やりとり」ができた
親御さんがずっと抱えていた閉塞感を、
「紙やすり」という意外なアイテムが打破してくれたのです。
何をやってもだめ、どうせうまくいかない
という学習性無力感の状態に陥っている親御さんを動かすのは、
並大抵のことではありません。
支援の場において、わずかでも希望の光を見いだせない限り、
「次の相談」には繋がらないからです。
今回の話は、決してコミカルな成功談ではありません。
もし今回も何も見つからなければ──
このお母さんはもう二度と助けを求めないかもしれない……
そんなプレッシャーに心臓がキリキリするような、真剣勝負の「修羅場」なのです。
最後に──開業10年目となりました
当たり前ですが、支援は「紙やすり」が見つかっておしまいではありません。
あなた、こんなことも好きだったの!?
そんな驚きをくれる「物」や「関わり」をこれからたくさん見つけていきますし、
人への反応を育む練習も積み重ねていきます。
教育相談を通じて──
- 子どもの変化を、親御さんと共に実感できる
- 本人の知らなかった新たな一面を発見できる
- 次の課題を見つけ、前向きに取り組んでいける
これは支援者である私にとっても、最高に楽しく、やりがいを感じる瞬間です。
おかげさまで、開業して10年目となりました。
2026年も、こうした「希望の光」が見える瞬間を、
一つでも多く積み重ねていきたいと思っています。
当相談室では、言葉やコミュニケーション、発達面や行動面でのお悩みに対して、
出張による療育支援を行っています。


相談を希望される方は、こちらよりお問い合わせください。
- 対象年齢: ご相談時点で3歳未満のお子さま
- エリア: 千葉県・東京都を中心に出張対応
- 支援方法: 応用行動分析学(ABA)に基づいた支援プランを個別にご提案
- サポート内容: ご家庭での療育支援、親御さんへの具体的アドバイス
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