子どもが食べない・偏食が治らない──原因と家庭でできる食事支援の始め方

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子どもが食べない原因とは?悩みに向き合う前に知るべき前提

子どもがごはんを食べてくれません。すぐに立ち歩いてしまいます…

こうした“食べてくれない”という悩みは、出張カウンセリングの現場でも非常に多く寄せられます。
多くの親御さんが、「このままで大丈夫なのか…」と日々不安を抱えながら過ごしています。

本来、食事は楽しい時間であるはずです。
でも現実には、ごはんを出しても顔をそむけられたり、好きな物しか受け付けなかったり…。
せっかく作ったごはんを食べてもらえないことに、心を痛めている方は少なくありません。

私の出張相談では、実際にご家庭に伺い、食事の様子を観察します。
食事の出し方や関わり方まで、その場で丁寧に確認していきます。

もちろん、細かい食事支援のテクニックもありますが、それはあくまで最後の最後。
最初に親御さんとしっかり共有したい、非常に大切な“前提”があるのです。

幼稚園での食事支援については、こちらの記事も参考になります。
👉給食を食べない園児への支援──先生が本当に困っているのは“食事”ではない


「食べていない」は本当?食事量のズレと親の認識のギャップ

ここで、一見当たり前のように思えるかもしれませんが、大切な前提を確認しましょう。

人間は、生きている限り、必ず何かを食べています。

食べなければ、生きていけません。

少し物騒に聞こえるかもしれませんが、これは揺るぎない事実です。

つまり、子どもも「何かしら食べてはいる」のです。ですが——

  • 親が期待するほどの量は食べていない(もっと食べてほしい)
  • 親が食べてほしいメニューは食べていない(野菜や魚など)
  • 親が望む食べ方では食べていない(座って食べてほしい)

要するに、「本当に何も食べない子ども」は、いないのです。

では、なぜこんなギャップが起こるのでしょうか?
そのカギは、ひと昔前の“食生活”にあります。


偏食・少食が起こる背景──「空腹」と「選べない環境」の重要性

ここで、私の祖母の話をさせてください。

祖母は戦時中の深刻な食糧難を経験しました。
毎日のようにサツマイモばかり。
白いごはんは滅多に口にできず、卵は病気のときだけの特別なごちそうでした。

「食べられるだけでもありがたい」——そんな毎日だったそうです。

あるとき私は、祖母にこう尋ねました。

そんな時代に、偏食や少食の子はいたの?

祖母の答えは、とてもシンプルでした。

「いるわけがないよ。」

なぜでしょうか。

本当にお腹がすいていれば、目の前にあるものを食べるしかありません。
そして、そもそも“好き嫌いをする選択肢”が与えられていなかったのです。

この話から、私たちが学べることがあります。
それは——

「空腹」そして「食べるものを選べない」という条件がそろえば、食の問題は起こりにくい。

ということです。

お腹がすいていて、「食べるものはこれしかない」という状況では、偏食・少食・食べ歩きは成立しづらいのです。

そう考えると、子どもに良い食習慣をつくろうとするうえで、現代の環境は本当に難しいと感じます。

この10年間、私は偏食や少食の相談を数えきれないほど受けてきました。
でもその中で、「最初からちゃんと空腹がつくれている」ご家庭に出会ったことは、ただの一度もありません。

あちらこちらに食べ物があふれている時代。
空腹を“意図的にコントロールする”ことの難しさを、私自身、実感しています。


食事支援の第一歩は“実態調査”から|何を記録すべきか

食事の悩みを解決するには、まず「今、何が起きているのか」を正しく知ることが欠かせません。

このとき注意が必要なのが、「記憶」や「印象」だけに頼ることです。
食事に関する記憶は、思っている以上にあてにならないのです。

たとえば——
ダイエット中の大人でも、つい手が伸びたチョコやクッキーを、なかったことにしてしまう…。
そんな経験、ありませんか?

だからこそ、支援では“事実ベース”で調査を行います。
実際の観察や、動画・写真などの記録からスタートします。
こうして生活実態を明らかにすることを、専門的には「生態学的アセスメント」と呼びます。

  • 子どもが【何を】【どれくらい】食べているか
  • 食べているのは【どこで】【誰と】【何時に】か
  • 間食は【何を】【いつ】【どのくらいの頻度で】とっているか
  • 平日と休日での食生活の違い
  • 食事中の行動(歩き回る・遊ぶ・YouTubeを見ながら…など)

このような実態調査を通して、親御さんも把握できていなかった行動パターンが次々に見えてきます。

たとえば——
「幼稚園のお迎えの帰り、祖父母と一緒にコンビニに寄っていて…」
「キッチンにある“お菓子かご”に自由に手が届くようになっていて…」

あ〜、やっぱり…

となることは、実際によくあります。

さらには親御さんからも——

実は…思い当たることが、あります

忘れかけていた事実が、少しずつ浮かび上がってくるのです。

調査が終わると、いよいよ食事支援の実践に入ります。


盛りつけも量も“見た目”をガラリと変えると食べ始める|家庭でできる実践方法

実態調査が終わったら、いよいよ本番です。
ここからは「まったく違う食事の出し方」に切り替えていきます。

まずは、“量”を根本から変えます。

いつも通りの食事を見せてもらいながら、私はスッと手を伸ばし、盛りつけられた料理の量をどんどん減らしていきます。

え、たったこれだけ? 逆にお腹がすくのでは?

そんな戸惑いが出るのは当然です。
でも、そこにあえて踏み込みます。

この場面では、栄養バランスや彩りといった日頃の工夫も、一時的に脇に置きます。

  • 一汁一菜のシンプルな構成
  • 普段の3〜4割程度の、少ない量
  • 大きなお皿にポツンと置いた、非日常な盛りつけ

無発語のお子さんでも――

何これ? 今までと全然違うけど…

食べる前から、目を丸くして驚く――
その瞬間に、食行動が動き出すのです。

  • ダラダラ食べが消え、夢中で完食
  • 「もうないの?」と物足りなさをにじませる表情
  • まるで別人のような食べっぷり

これらが、たった1日で起きることも、珍しくありません。

もちろん、戦時中のような「毎日サツマイモ」は現代では現実的ではありません。
でも、それに近い環境を“期間限定”でつくることは可能です。

こうした食事環境によって、

もっと食べたい!

という、本能的な欲求を呼び覚ますことができるのです。

そして、その“変化の兆し”を起点に、次の食事へと量・内容・出し方を調整していきます。


支援が不安な親御さんへ──戸惑いと向き合う専門家の覚悟

ここまで紹介してきた食事支援の方法は、どれもシンプルで、理屈も明快です。
けれど実際に取り組むとなると、一番の壁になるのは、親御さんの“気持ち”の部分です。

とくにお母さんにとって、子どもの食事はとてもデリケートな問題です。

母乳かミルクか、離乳食、アレルギー…。
悩みながら、手探りで乗り越えてきた経験のある方も多いでしょう。

だからこそ、そうした積み重ねを「変えましょう」と言われたときに、戸惑いが生まれるのは自然なことです。
ときには、それまでの努力や愛情を否定されたように感じてしまうことさえあります。

——それでも支援に踏み出すには、支援者自身の「覚悟」が必要です。

親御さんの不安に寄り添いながらも、こちらが本気で向き合っていることを、言葉と姿勢で伝えなくてはなりません。

うまくいかなかったら、すべて私の責任です

「必ず、しっかり食べるようになります」

「3日間だけ、一緒にやってみませんか?」

こうした言葉は、ただの提案ではありません。
支援者の覚悟を伝えるための、大切なメッセージです。

その一歩を見せたとき、親御さんの心に、ほんの小さな“揺らぎ”が生まれます。

この人がそこまで言うなら、信じてみようか…

その瞬間こそが、支援のスタート地点です。


食事支援は“親の成長支援”でもある|家庭で起きる変化

食事の支援は、短期間で劇的な変化が起こります。
実際、「信じられない」「まるで魔法みたい」と話す親御さんも少なくありません。

でも、変わるのは子どもだけではありません。
親御さんの表情がふと明るくなり、次の支援にも自信をもって取り組めるようになります。

つまり、それは親子にとっての確かな一歩なのです。

食事の支援は、単に「子どもが食べないこと」を解決するだけのものではありません。
親御さんが、これまでとは違う育て方を知り、少しずつ実践していく。
その経験そのものが、「親としての成長」につながっていきます。

そして、このプロセスを支えることこそが、私たち専門家の役割だと考えています。


子育てにおいて「変えること」を決断するのは、いつだって勇気のいることです。
そんな“迷いや戸惑い”に向き合うヒントが、こちらの記事にもあります:

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