同じ質問ばかりの“こだわりパターン”――親にできる“こだわり崩し”とは?(後編)

目次

前回の続きです

※前回記事
👉「しつこく同じことを何度も聞いてくる…」こだわりにどう答えればいい?(前編)

前回の記事では、「同じことばかり何度も聞いてくる」という子どもの“こだわり行動”について、
その背景にある「根本的な問題」、そして「将来的な影響」について整理しました。

とはいえ――
実際の生活の中で、子どもが同じ質問を何度もしてきたとき、
親としてどのように答えればよいのかについては、まだ触れていませんでした。

今回は、そんな場面でどのように関わり方を変えていけるのか。
保護者の方にご提案している、“パターン崩し”の練習例をご紹介していきます。


カードゲームで考えてみましょう

ここで、ちょっとカードゲームを想像してみてください。
手札を出し合って、うまく相手に返していく――そんなやりとりです。

カードの種類がたくさんあると、戦い方も広がりますよね。
いろんな戦い方があるからこそ、「どう出るか」「どう返すか」を考えるのが面白くなる。

では、親子のやりとりをこのゲームにたとえてみると…?

うちの子は、いつも同じ「質問カード」しか出してこないんですよ。
しかも、それを何ターンも、ずーっと!

たしかに、同じカードばかりではつまらないですよね。
いくら親でも、「またこれか…」とうんざりしてしまいます。
それに、「このやりとりで本当に大丈夫なのかな?」と、不安にもなってきます。

ここまでは、お母さんの気持ちに焦点を当ててきました。
では今度は、子どもの視点から、考えてみましょう。

僕が「質問カード」を出せば、お母さんはいつも「丁寧に答えるカード」を出してくれる。

もちろん、お母さんの方が言葉や経験が豊富なので、答え方が少しずつ違うこともあります。
それでも、基本的には「丁寧に答えるカード」で返してくれるわけです。

子どもからすれば、この“パターン化されたゲーム”が、とても心地よいのです。

――ここから、何か見えてきませんか?


親も子もワンパターン?

ギ、ギクッ。
実は私だって、ワンパターンだったってことですよね?

子どもの問題だとばかり思ってたけど……
これ、一緒じゃん! って気づきました。

ちょっと反省です💦

🃏 新たな手札を授けましょう!

お母さんの気づきも進んだところで――
いよいよ、新カードの登場です。

カードゲームでは、正攻法だけでなく、さまざまな戦い方がありますよね。

それと同じように、お子さんが「どうして?」と聞いてきたとき、これまでのような「丁寧に答えるカード」は、あえて使わず、別のカードを出してみるという選択肢が出てきます。


親御さんの手札に“新カード”を!

では、実際にどんな“手札”があるのか――
具体例をいくつかご紹介していきます。

●「どれ食べたい?カード」
効果:子どもの“どうして?”攻撃を、“どれ?”モードへ移行させる。
使い方:「野菜とお肉を煮込んでるから、カレーでもシチューでも肉じゃがでもいけるんだけど、どれが食べたい?」

● 「哲学回避カード」
効果:質問攻撃を一時的に無効化する。子どもは「なんで?」を1ターン封印される。
使い方:「どうしてかしら…。洗濯機に靴下を入れると片方だけ消えるの、なんでかしら…?」

● 「意味崩壊カード」
効果:子どもの頭の中を「???」にさせる。
使い方:(お子さんが「どうして?」「なんで?」と問いかけるたび)
「ジェノベーゼパスタ大好きなの!」
「ジェノベおいしいわ!」
「あぁジェノベーゼ…私の愛しいジェノベーゼ…」と、ひたすら返答する。

● 「母の威厳カード」
効果:やりとりを一刀両断して終了にする。
使い方:「ママが〇〇って言ったら〇〇なの、はい、以上!」

※普段からむやみに使いすぎると“ボスキャラ化”するので注意

● 「煙に巻くカード」
効果:「あなたの味方よ♡」を装いつつ、攻撃をスルーする。
使い方:(優しげなトーンで)
「そうねぇ。ママも分からないねぇ。どうしてかしらねぇ。」

こんな感じです!

お、おもしろい……

ですけど、親としてこんなの“あり”なんでしょうか?
それに、こんなこと言ったら子どもが傷つきませんか?


「思い通りにならないこともある」という大切な体験

ありです。そして、決して“ふざけている”わけではありません。

もう一度、振り返ってみましょう。
今回の根本的な問題は、何でしたか?

  • 自分のこだわりに、他人を付き合わせてしまう。
  • 思い通りのパターンにならないと、不穏になってキレる。

一日数回どころではなく、何十回もこだわり行動に付き合い、
それが叶わないと激しく怒る――。
この状況は、やはり重たく受け止める必要があるのです。

では、教育相談や日々の関わりの中で、どんな状態を目指していくべきでしょうか。

たとえば――

  • ママが自分の思ったとおりにやってくれない
     → ママのペースになることもある。
  • 聞いたことが必ずしも返ってくるわけではない
     → まぁ、そんなこともある。
  • やりとりがスパッと中断されることもある
     → 不本意だけど、仕方ない。
  • 予期せぬ答えが返ってくることだってある
     → 少し驚いたけど、でも大丈夫。

こうしたやりとりを、少しずつ受け入れていく練習。
これが、パターン崩し・こだわり崩しの実践なのです。


親御さんの不安を乗り越えるために

頑張ってみようと思いつつ……。

でも、うちの子って、その“崩し”にすごく敏感で……。
むしろエスカレートしそうで、正直ちょっと怖いんです。

十中八九、子どもは怒ります。
ですが、それを“避けられないもの”として受けとめた上で、取り組む必要があります。

なぜなら、こちらが今までと違うパターンで関わるわけですから、
子どもにとっては、これまで見たこともないような展開になるのです。

「そうじゃない!」「いつもの言って!」
と、ものすごく強く反応するかもしれません。

――でも、まさにそこが課題なんです。

ですから、どうか専門家を信じてみてください。

先ほどいくつかの“カード”をご紹介しましたが、
あれを全部使うわけではありません。

まずは、ひとつだけ。
そして、そのひとつを使う場面も、必ず専門家が一緒にいる中で練習を始めます。

親御さんが「これなら自分でもできそう」と思えるようになるまで、しっかり付き添います。


これは“小手先のテクニック”ではありません。

ここがとても大事なポイントです。
もし、専門家のサポートもないまま、
「おもしろそうだからやってみよう」と試したら――
確実に失敗します。

ただ“便利な言い回し”を覚えるだけでは不十分で、
とにかく根気強い「練習」が必要なんです。

それでも、折れずに粘り強く続けていくと、
最初はプリプリしていたお子さんが、こんなふうに変わっていきます。

「うーん、ぼくはカレーが食べたいな」

「靴下、洗濯機の前に落ちてるよー」

「ジェノベよりミートソースのほうがいいな」

こんなやりとりが、少しずつできるようになっていきます。
だって、お母さんとのおしゃべりが大好きですからね。


大変なことは、少しでも楽しく練習しましょう

カードゲームだって、ただ強いカードがあれば勝てるというわけではありません。
相手との相性や、使うタイミング、場の流れを見ながら、実戦形式で何度も練習することが大切です。

それと同じように、子どもとのやりとりも、少しずつ実際の場面で経験を積んでいくことが必要です。

もちろん、支援者が丁寧にサポートしますので、どうぞ安心してください。

  • 大切なのは、親子共に“手札”を増やしていくこと
  • やりとりのバリエーションが増えてくれば、“決まったパターン”は、そもそも必要なくなっていきます

本記事の前編はこちら。

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