『ちょうだいサイン』は支援に見えるからこそ危ない
「言葉が出ない」
「発語がない」
2歳・3歳になり、言葉が出てもよい時期を過ぎているのに、思うようにコミュニケーションが取れない。
そんな悩みを持つ親御さんは少なくありません。
今回の記事では、そうした悩みを抱えた保護者の方に、
「これだけは絶対にやってはいけない」
という関わりを、ストレートに紹介します。
それが、
「ちょうだいサイン」です。
「これをやると、言葉とコミュニケーションの成長が止まる」、そう断言できる関わりです。
残念ながら、それを「良かれと思って」教えてしまう支援者が一定数います。
しかも、ちょうだいサインは、いかにも支援らしく見えます。子どもに何かを教えているように見える。保護者からも、専門的なことをしてもらっているように見える。
だからこそ厄介なのです。
はっきり言います。
その方法を教える支援者は、正しい支援を学ばずに現場に立っている可能性が高いです。
それでは、順を追って見ていきましょう。
出張療育で何度も見てきた『ちょうだいサイン』
親御さんからの依頼で、出張療育にうかがいます。しばらく様子を見ていると、こんな場面に出会います。
(手をパチパチと叩く)
これは何ですか?
要求のサインです。おやつが欲しいとか、抱っこしてほしいとか…
お母さんが教えたんですか?
いえ、別の支援機関で教わって…
……。
私はこのやりとりを、10年間、何度も繰り返してきました。
出てくるのは、もう“お決まり”の万能アクションです。
- 手をパチパチ叩く
- 手のひらをスリスリする
- 機械的に「チョーダイ」と言う


これひとつで、おやつも、おもちゃも、抱っこも全部叶う。いわば「1粒で2度も3度もおいしい」要求パターンです。
私はこのような行動を、『ちょうだいサイン』と呼んでいます。
そして──
お子さんがこれを覚えていると分かった瞬間、私はがっかりを通り越して、目の前が真っ暗になります。
言葉の成長を止める『ちょうだいサイン』──何がいけないの?
えっ?これの一体どこが問題なんですか?
親御さんは、良かれと思って教えてきたのですから、戸惑うのも無理はありません。
子どもが「ジュースが飲みたい」「おもちゃがほしい」など要求を伝えるのは、大切な行動です。
問題は、その伝え方です。
- パチパチと手を叩く。
- スリスリと手をこする。
こうした、決まったポーズをすれば、すぐに大人が動いてくれる。
一見、なんの問題もないように見えます。
むしろ「分かりやすい」と思えるかもしれません。
ですが──
この関わりを繰り返すと、子どもは学習していきます。
- ジュースが欲しければ、パチパチ
- テレビをつけてほしければ、パチパチ
- 抱っこしてほしいときも、パチパチ
“パチパチ”ひとつで、全部叶う。
そうなると、子どもは相手を見る必要がなくなります。大人の声を聞く必要もなくなります。表情を見る必要も、相手に合わせる必要もなくなります。
目も耳も頭も使わずに、「機械的に手を叩けば、周りが動いてくれる」
という習慣を教えてしまうことなのです。
確かに、手を叩くだけで私を見なくなってきました……。
発語を止める悪い習慣──修正は、そう簡単ではありません
一度覚えた習慣を変えることは、難しいです。
特に『ちょうだいサイン』のように、ひとつで何にでも使える便利な技を覚えてしまうと、大人が新しい方法を教えようとしても、子どもにとってはこうなります。
もうこれで足りているよ?
という状態になります。わざわざ相手を見たり、声を聞いたり、新しい言葉を覚えたりする理由がありません。
しかも、新しい方法を教えるには、これまで通じていたパターンを一度崩す必要があります。
当然、子どもは抵抗します。かんしゃくを起こすこともあります。同じサインを激しく何度も繰り返すこともあります(消去バースト)。
大抵の親御さんは、心が折れます。
しかもこのサインは“分かりやすい”ので、幼稚園や保育園、外出先でも通用します。いわば、どこでも使える“万能リモコン”のようなものです。
一度覚えてしまうと、その流れを止めるのは簡単ではありません。
だから私は、『ちょうだいサイン』を最初から教えるべきではないと考えています。
修正に苦労するくらいなら、最初から教えない方がいいのです。
『ちょうだいサイン』がダメなら、何をすればいい?
『ちょうだいサイン』の問題は、お決まりのパターンひとつで、すべての要求が通ってしまうことでした。
では、どうすればよいのでしょうか。
お決まりのパターンにしなければ良いのです。
たとえば、子どもがクッキーを食べたくなったとします。お母さんに近づくと──
- お母さんは自分のほっぺを触っている。
- それを見て、同じようにほっぺを触る。
- すると、クッキーを渡してもらえる。
でも、次も同じとは限りません。
- お母さんがお腹を触っているかもしれない。
- その次は、頭かもしれない。
- お父さんは、バンザイかもしれない。
子どもからすると──
あれ?今度はどれ?
となります。
でも、正解は目の前にあります。
相手を見ればいいのです。


ここが、『ちょうだいサイン』との大きな違いです。
このとき大切になる練習のひとつが、『動作模倣』です。
動作模倣がなぜ言葉の発達につながるのかについては、こちらの記事で詳しくお伝えしています。


最後に、親御さんへ
今回は、『ちょうだいサイン』が言葉とコミュニケーションの発達を妨げてしまう理由をお伝えしました。
もし、これまで『ちょうだいサイン』を教えてきたとしても、親御さんを責めたいわけではありません。
多くの場合、親御さんは「これが良い支援なのだ」と思って、一生懸命取り組んできたはずです。
ただし、良くないものは、やはり良くない。
- 子どもが相手を見なくなる。
- 声を聞かなくなる。
- 決まった動きだけで要求が通ってしまう。
そうした関わりが、言葉の発達にとってプラスになるとは、私は考えていません。
大切なのは、お子さんとご家族に良い行動、良い習慣が増えていくことです。私は、出張療育という形でそれを支援しています。
当相談室の出張療育がどのように始まるのか、漫画で紹介しています。
冒頭の11ページはこちらから読むことができます。


出張療育を漫画で紹介しています
言葉が出ない、名前を呼んでも振り向かない、かんしゃくが激しい──。
実際のご家庭をもとに、出張療育がどのように始まり、親子がどう変わっていくのかを漫画で紹介しています。
冒頭11ページを公開中。全編冊子は無料で郵送しています。
すでに『ちょうだいサイン』が定着し、相手を見ずに同じ動きを繰り返す状態になっている場合、家庭だけで修正するのは簡単ではありません。
当相談室では、ご家庭にうかがい、相手を見る・動きを真似する練習を初回から行います。
出張療育をご希望の方は、下記よりお問い合わせください。








