「きょうだい仲良く」は目指さない──激しい兄弟喧嘩を止めた出張療育

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出張療育で「きょうだい関係」を支援する

私は、家庭に出張して療育を行っています。

あるお子さんの支援を続ける中で、きょうだい関係がテーマに挙がることがあります。

支援の依頼があったのは、2歳の弟さんです。知的には重度の遅れがあるお子さんでした。

幼少期から、言葉の練習や激しいかんしゃくの直し方などを支援してきました。それ自体は改善したのですが……。

きょうだいがいつもケンカばかりで、ちっとも仲良く過ごすことができません…。

このようなご相談がありました。

今回の記事では「きょうだい関係」について、療育の中で親御さんをどのように支援しているか取り上げます。


家庭の中で起きていたのは「ちょっとしたきょうだいゲンカ」ではなかった

私の支援は、自宅に出張して行うことが何よりの強みです。

「きょうだい仲良く」と言っても、実際に家の中で何が起こっているのかを確かめずに支援することはありません。

きょうだいの関わりを直接見たり、事前に普段の様子を動画に撮ってもらったりして、必ず現場を確認します。

さて、わざわざ専門家に出張してもらってまで支援を依頼するくらいですから、「ちょっとしたきょうだいゲンカ」なわけがありません。

実態は──

  • 弟が、兄の顔面に固いブロックを投げつける
  • 怒った兄が、弟を蹴る
  • パニックになった弟が、自分の頭を打ち付ける

このような、まさに修羅場でした。

気づかなかった私も悪かったですが、もっと早く相談しましょうよ……

本当ですよね……


ケンカが始まるきっかけは、いろいろあったのかもしれません。

しかし、弟さんの行動は、まさに強度行動障害一直線でした。

それだけではありません。

お兄ちゃんから弟に対して──

おしゃべりできないおバカだから叩くんだよ!

このような否定的な発言も、多く見られるようになっていました。


「きょうだい仲良く」という発想は捨てましょう

さて、ケンカではなく、暴力の応酬をどう解決するか。

どうすれば、きょうだい仲良く過ごせるでしょうか……

この問いに、私は──

まず、お母さんが思っている“きょうだい仲良く”という発想は捨てましょう

と、支援者にあるまじき、身もふたもないことを伝えました。

しかし、決して冗談ではありません。私はいつでも本気です。

お母さんが思う“きょうだい仲良く”とは、次のような姿です。

  • 一緒におもちゃを分かち合って遊ぶ
  • お兄ちゃんは、兄らしく弟に譲る
  • テーブルに並んでおやつを食べる

笑顔あふれる、微笑ましい光景です。

しかし、そのような光景が家で実現するのは、10回に1回くらいでした。

残りの10回に9回は、物を投げたり、叩いたり、ギャーギャーと叫んだり。

2人の前世が下剋上の戦国時代を生きたきょうだいだったのかと思うくらい、実際のきょうだい関係は、地獄絵図になっていました。

では、どちらが悪いのでしょうか。

ケンカのきっかけを一つひとつ追っていけば、弟が先に手を出すこともあれば、怒った兄がやり返すこともあります。結局は「お互いどっちもどっち」です。

しかし、どちらが先だったのかを確かめても、暴力は止まりません。ケンカが始まった時点で、すでに2人とも興奮しているからです。

起こってから止めるのではなく、そもそもケンカが起こらないようにしなければなりません。

問題行動が起きてから止めるのではなく、問題が起こらない過ごし方を先に作る。この支援の考え方については、こちらの記事でも詳しく書いています。

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きょうだいには「家庭内で別居」してもらう

そこで、私が提案したのは──

2人には、家庭内で別居してもらいましょう

別居!?


もちろん、別居と言っても、アパートを借りるとか、そういうことではありません。

具体的には、家の中に次のような環境を作りました。

  • リビングに、畳1畳ほどの個別ブースを2つ設置する
  • それぞれのブースを離し、背を向け合うように配置する
  • 兄は弟のブースに絶対に入らない。逆もまたしかり

まるで、家の中に漫画喫茶の個室ブースが2つ設置されたようなイメージです。

それぞれのブースには、お気に入りのおもちゃやグッズを置きます。ただし、共有は一切なし

おやつのときも、テーブルに並んで食べることは禁止しました。

リビングのテレビを見るときも、それぞれのブースから見ます。肩を並べて見ることはありません。

そのような生活に変えました。

お母さんがイメージしていた「きょうだい仲良く」とは、天地がひっくり返ってしまったかのような光景です。

一人で穏やかに過ごせる遊びを作ること自体も、重要な療育の一つです。
重度の知的障害があるお子さんの一人遊びと情緒の安定については、こちらの記事で取り上げています。

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背を向け合うようにした結果、暴力はゼロになった

物を投げる、蹴るといったきょうだいゲンカ──というより、暴力は激減しました。

そして、1か月後にはゼロになりました。きちんと記録も取っています。


もちろん、どの家庭でも安易に個別ブースを作ればよいという話ではありません。

今回の記事でお伝えしたいのは、きょうだいゲンカをどのように止めたかという方法以上に、その前提です。

私は、親御さんに最初からこうお伝えしました。

お母さんが思い描くような“きょうだい仲良く”は目指しません!

私には──

このきょうだいは、顔を合わせれば必ず暴力が始まる

という確信がありました。今の環境のままで“きょうだい仲良く”が実現される日は来ないと、疑いもなく思っていました。

絶対にきょうだいゲンカは、起こる。

そう確信していたからこそ、問題が起こってから何とかするのではなく──

そもそも問題が起こらない環境を作ろう

と思ったのです。


離れたからこそ、「仲良く」が結果として生まれた

では、このきょうだいは、その後もずっと背を向け合う関係になったのでしょうか。

いいえ、決してそんなことはありません。ある日、お兄ちゃんがお母さんに──

ぼくはもう使わないから、これあげていいよ

このような「やさしい」行動は、きょうだいが離れて過ごすようになってから見られるようになりました。

学齢期になった時点で、個別ブースも撤去しました。お互いに暴力行動が起こらなくなったからです。


「きょうだい仲良く」と聞いて、そうあるべきだ、むしろそれが当たり前だと思われる方は多いはずです。

しかし、私は、そうあるべきとも、当たり前とも思いません。

年齢も違えば、発達の程度も違う。好きな遊びも、物の使い方も、嫌がることも違います。

それなのに、

「きょうだいなのだから一緒に遊びなさい」
「お兄ちゃんなのだから譲りなさい」

と言って、2人を接近させ続ければ、何が起こるでしょうか。

このきょうだいの場合、それは仲良くなる練習ではありませんでした。

物を投げる。蹴る。叩く。自分の頭を床に打ちつける。

毎日、暴力を繰り返す練習になっていたのです。

きょうだいの適切な距離は、ご家庭によって違います。

このきょうだいの場合は、お互いに背を向け合う距離が最初の一歩でした。

相手に邪魔されず、奪われず、攻撃されずに過ごせる時間を保障する。

その生活を積み重ねた結果として、相手に物を譲るような「やさしい」行動が生まれたのです。

仲良くは、最初から目指す目標ではありません。

結果なんです。


当相談室の出張療育がどのように始まるのか、漫画で紹介しています。
冒頭の11ページはこちらから読むことができます。

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