子どもが自分で動けるようになるための教え方──身体プロンプトの話

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子どもが「言っても動かない」とき、親はどうすればよいか

私は、千葉県・東京都を中心に、ご家庭に出張して療育を行っています。子育てに困っている親御さんに、関わり方や支援方法をお伝えする仕事です。

親御さんから寄せられる相談は、本当にさまざまです。ただ、一言でまとめるとすれば──

子どもが言うことを聞いてくれません……

ここに集約されるように思います。

たとえば、

  • 「片付けて」と何度も言っているのに、まったく動いてくれない。
  • 「おしまい」と伝えているのに、やめようとしない。

親御さんが困るのは、こういう場面です。

丁寧に声をかけているつもりなのに、子どもが思った通りに動いてくれない。

これが、子育ての悩みの本丸だと思います。

「思った通りに動いてくれない」相手に日々どう接すればよいか。

それを親御さんに教えることが、私の仕事だと言えます。


アイドルの握手会に見る、「人を誘導する技術」

ところで、「言っても聞いてくれない」「思った通りに動いてくれない」という問題は、子育てだけの話ではありません。

大人の世界にも、そんな場面はいくらでもあります。たとえば──

アイドルの握手会です。

ファンは、1秒でも長くアイドルと一緒にいたい。
少しでも長く手を握っていたい。

だから、自分からはなかなかその場を離れようとしません。

しかし、1人ひとりのファンのペースに任せていたら、握手会はいつまでも終わりません。

そこで登場するのが、「はがし」と呼ばれるスタッフさんです。

スタッフさんは、ファンの肩や背中のあたりにそっと手を添え、タイミングを見ながら次へ進むように誘導します。

もちろん、口頭でも「お時間でーす」と声をかけています。

でも、その声かけだけですべてのファンがすんなり動くわけではありません。

この場面で大切なのは、言葉による指示だけではありません。

むしろ、どう誘導するか。

つまり、「はがし方」というスタッフさんの技術です。


身体プロンプトとは、子どもの動きを助ける教え方です

実は、私が出張療育の中で、特に力を入れているのが、この「体の誘導」で子どもに教えること。

専門的には──

「身体プロンプト」

と呼ばれます。プロンプトとは、“お手伝い”や“ヒント”のことだと思ってください。

たとえば、声をかけることもプロンプトです。
イラストを見せることも、お手本を見せることもプロンプトです。

どれも、子どもが次に何をすればよいか分かりやすくするための手がかりです。

ただし、これらには弱点もあります。

それは──

子どもが動いてくれるとは限らない

ということです。

  • 声をかけても動かない。
  • 視覚的な手がかりを見せても見てくれない。
  • お手本を見せても、やらない。

こうなると、最終的に「やるか・やらないか」が子どもに委ねられてしまいます。

一方で、身体プロンプトは違います。

身体プロンプトでは、大人が体の動きを直接助けることができます。

つまり、「言葉で分かってもらう」のではなく、まず一緒に動く。

その動きの中で、子どもに何をすればよいのかを教えていきます。

  • 着替える。
  • トイレに行く。
  • 手を洗う。
  • 片付ける。
  • 椅子に座る。

生活の中には、必ず“動き”があります。

子どもに何かを教えるということは、結局のところ、その子がどう動けるようになるか、ということでもあります。

私の相談室では、知的な遅れが重たいお子さんや、自閉スペクトラム症の特性が強いお子さんも多くあります。

最初の頃は、模倣が難しいこともあります。
声かけや視覚的なヒントが、うまく使えないこともあります。

そういう場面は、決して珍しくありません。

では、どうすればよいのか。

そのとき、私は親御さんにこう伝えます。

身体プロンプトをうまく使えるようにしましょう。

そして、ご家庭の中で一緒に練習していきます。


「無理やり動かす」のではなく、自分で動けるように支える

体を誘導するなんて、なんだか押しつけっぽい…

最初は、このように感じられる親御さんも多いです。

また、幼稚園や保育園の先生の場合、「丁寧な声かけが大切」と教わることも多いので、身体プロンプトの話をしても、最初はピンとこない方もいます。

でも、身体プロンプトが押しつけというのは、全くの誤解です。むしろ、身体プロンプトは、とても丁寧な教え方です。

もう一度、「握手会」の例で考えてみましょう。

実際の握手会の映像を見ると、スタッフさんが最小限の力でファンを誘導していることが分かります。

自分から歩こうとする人には、軽く手を添えるだけです。

一方で、足を踏ん張ってなかなか動こうとしない人には、少し横方向の力を加えて、次へ進みやすいようにしています。

1日で何百人、何千人ものファンを誘導しているスタッフさんは、どうすればスムーズに次へ進んでもらえるかを、体で覚えていくはずです。

これが、技術です。

握手会のスタッフさんがしているのは、相手を力でねじ伏せることではありません。

相手の動きに合わせて、次に進みやすい方向へ誘導することです。

これは、子どもへの身体プロンプトでも同じです。

体の誘導というと、「力任せ」「無理やり」という言葉が浮かぶかもしれません。

でも、実際にはそうではありません。

お着替え、鉛筆の練習、動作模倣など、あらゆる場面で大切なのは、加えている力を少しずつ減らしていくことです。

最初はしっかり手を添える。

そこから少しずつ力を抜いていく。

触れているかどうか分からないくらいまで、お手伝いを減らしていく。

そして最後は、近くで見守るだけにする。

つまり、身体プロンプトの目的は、大人が子どもを動かし続けることではありません。

お手伝いやヒントがなくても、子どもが自分で動けるようになることです。


出張療育で、親御さんと一緒に「動きを助ける技術」を練習する

子育ての中で「身体プロンプトを使って教える」という方法は、多くの場面で有効です。

しかし、一般の親御さんがそれを自然に思いつくことは、なかなかありません。

また、思いついたとしても、実際にうまく使えるようになるには練習が必要です。

スポーツの指導場面でも、コーチが手取り足取り教えることがあります。

それが可能になるのは、やはりコーチがそばにいるからです。

技術を身につけるためには、口頭の説明だけでは難しいことがあります。

どこに立つのか。

どこに手を添えるのか。

どのくらいの力で誘導するのか。

どのタイミングで手を引くのか。

こうしたことは、実際の場面で一緒に確認しながら練習していく必要があります。

私がご家庭に直接出張して支援を行う理由も、まさにそこにあります。

子どもへの教え方には、さまざまな方法があります。

ただ、生活の中で必要な動きは、できるだけ低年齢のうちから身につけていきたいものです。

体重20キロのお子さんと、30キロのお子さんでは、支援の難易度も大きく変わります。

身体プロンプトを使った支援も、子どもが小さいうちの方が導入しやすい面があります。

だからこそ、早い段階で、親御さんが「どう声をかけるか」だけでなく、「どう動きを助けるか」を知っておくことが大切です。

身体プロンプトは、子どもを無理やり動かすための方法ではありません。

子どもが自分で動けるようになるために、大人がそばで支える技術です。

その技術を、実際の生活場面の中で親御さんと一緒に練習していくこと。

それが、私が出張療育で大切にしている支援の一つです。


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  • サポート内容: ご家庭での療育支援、親御さんへの具体的アドバイス

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